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Bull Note米国株 デイリー戦略ノート

MONTHLY · 2026 / 7月

2026年7月 マンスリー (確報) — S&P500 -0.13% は2014年以来11年ぶりの『7月下落』。指数は横ばいでも Microsoft +24.6% と Tesla -26.0% が同居し、AI 投資の収益化を証明できたかで真っ二つに割れた月

2026年7月の米国株は、S&P500 が月間 -0.13% (7,489.72) と、2014年以来11年ぶりの『7月下落』で終えた。ダウは +0.32% (52,485.03、4か月連続の上昇)、NASDAQ Composite は -3.20%。指数だけ見ればほぼ横ばいだ。だが内側は歴史的な分裂だった。半導体 (SOX) は -20.61% と弱気圏に沈み、NASDAQ 100 は -6.61%。その一方で Microsoft は +24.58%、Amazon は +13.95% と急伸し、Tesla は -26.01%。首位と最下位の差は 50pt を超えた。月を貫いたのは『AI 設備投資 (CapEx) を収益に変換できている証拠を出せたか』という単一の審判軸で、7/16 の TSMC、7/22 の Alphabet・Tesla、7/29 の Meta が次々に裁かれる一方、7/29 の Microsoft (Azure +43% 再加速) と 7/30 の Amazon (AWS +36.7%・利益率 +650bp) は CapEx を増やしてなお買われた。月末の4営業日には FOMC のタカ派据え置き (9対3・3地方連銀総裁が利上げを主張して反対) でダウが -1,153pt と年初来最悪の日を記録し、30年債利回りが 5.21% と2007年来の高水準へ。それでも決算2社の急騰で指数は戻し、7月は横ばい着地となった。8月はエヌビディア決算 (JST 8/27 早朝) とジャクソンホールが二本柱になる。

執筆: kinjo26 分で読了中立

指数は横ばいでも、AI 投資の収益化を証明できたかで銘柄が 50pt 超に割れた月。「Mag7」という括りが機能しなくなった。

今月のまとめ

2026年7月 (確報) の米国株は S&P500 月間 -0.13% (7,489.72) と2014年以来11年ぶりの「7月下落」。ダウ +0.32% (52,485.03、4か月連続上昇)・NASDAQ Comp -3.20% で、指数だけ見ればほぼ横ばい。だが内側は半導体 SOX -20.61%・NASDAQ100 -6.61% の一方で Microsoft +24.58%・Amazon +13.95%、Tesla は -26.01% と、首位と最下位で 50pt 超の格差がついた分裂相場だった。月を貫いたのは『AI 設備投資を収益に変換できた証拠を出せたか』という単一の審判軸で、TSMC (7/16)・Alphabet/Tesla (7/22)・Meta (7/29) が裁かれる一方、Microsoft と Amazon は CapEx を増やしてなお買われた。月末の FOMC はタカ派据え置き (9対3) でダウ -1,153pt の年初来最悪の日を作り、30年債は 5.21% と2007年来高値へ。物色は等加重 (RSP +1.05%) が時価加重 (SPY +0.03%) を上回り、AI の外側へ広がった。8月は NVIDIA 決算とジャクソンホールが二本柱。

月末マーケット スナップショット

月間騰落 (前月末終値比)。最終 US セッション (2026年7月31日(金)) の引け値ベース。

SPX0.13%

S&P 500 (7/31 確定)

7,489.72

-9.64

IXIC3.20%

NASDAQ Comp (7/31 確定)

25,373.85

-839.87

NDX6.61%

NASDAQ 100 (7/31 確定)

28,274.20

-2,002.15

DJI+0.32%

Dow 30 (7/31 確定)

52,485.03

+165.83

RUT3.08%

Russell 2000 (7/31 確定)

2,931.34

-93.03

SOX20.61%

SOX 半導体 (7/31 確定)

11,311.08

-2,935.88

VIX2.80%

VIX (7/31 終値)

15.99

-0.46

US10Y+7.40%

10Y Yield (7/31)

4.74

+0.32

SPX
-0.13%
IXIC
-3.20%
NDX
-6.61%
DJI
+0.32%
RUT
-3.08%
SOX
-20.61%
VIX
-2.80%
US10Y
+7.40%
主要指数の月間騰落 (%)。中央が 0、緑=上昇・赤=下落で、バー長は変化率の大きさに比例。

今月の数字

2026年7月を数字で振り返る

ピーク接近

S&P 500 月間騰落

-0.13%

2014年以来11年ぶりの「7月下落」

半導体 SOX 月間

-20.61%

6月末 14,247 → 7/31 11,311 で弱気圏

Mag7 の最大格差

50.6pt

首位 MSFT +24.58% / 最下位 TSLA -26.01%

EPS ビート率

86%

5年平均 78%・でもビートは報われず

RSP vs SPY 月間

+1.05% / +0.03%

等加重優位 = 物色の幅は広がった

フォワード P/E

19.6

5年 19.9 を下回る / 10年 19.0 は上回る

今月を定義したテーマ

1 ヶ月の値動きの底流にあった構造的なストーリー。

01

AI 投資の『収益化を証明できたか』が唯一の審判軸になった

7/16 TSMC・7/22 Alphabet/Tesla・7/29 Meta が『売上ビートでも CapEx 増額と FCF 劣化で売られる』側に回り、7/29 Microsoft (Azure 40%→43% 再加速)・7/30 Amazon (AWS +36.7%・営業利益率 +650bp) は CapEx を増額してなお買われた。市場が見る場所が『いくら投じるか』から『投じた分がどれだけ収益に変わっているか』へ移った。

02

『Mag7』という括りが機能しなくなった

首位 Microsoft +24.58% と最下位 Tesla -26.01% の差は 50pt 超。Amazon +13.95%・Apple +6.76% が上位、NVIDIA +0.33%・Alphabet -0.35%・Meta -1.17% が中位に沈んだ。同じテーマに晒された銘柄群でも、答えは企業ごとに分かれる段階へ入った。

03

半導体の弱気圏入り (SOX -20.61%)

6月末 14,247 から 7/31 11,311 へ -20.61%。中国 Moonshot の Kimi K3 が AI コモディティ化不安を再燃させ、循環的 AI 金融への疑念、TSMC の CapEx 上方修正が重なった。ただし 7/30 には +8.19% の急反発もあり、実需で稼ぐメモリ (Micron +15〜18%) と期待で買われていた銘柄の選別が進んだ。

04

物色は AI の外側へ広がった

等加重 RSP が月間 +1.05% と時価加重 SPY (+0.03%) を上回り、エネルギー +12.1%・金融 +6.2% が資金の受け皿になった。NASDAQ Composite -3.20% に対し NASDAQ 100 -6.61% という差も、下落が超大型に集中したことを示す。ただしラッセル2000 は -3.08% で、金利高止まりが中小型を圧迫した点は留意。

セクター ローテーション

11 セクター (SPDR ETF) の月間騰落。資金がどこに向かい、どこから逃げたか。

XLE
+12.1%
XLF
+6.2%
XLV
+2.5%
XLP
+2.4%
XLI
-2.9%
XLK
-8.0%
セクター ETF の月間騰落 (%)。緑=資金流入・赤=資金流出。
XLE

エネルギー +12.1%

月間首位。中東緊張で原油が乱高下しつつ月間では大幅高

XLF

金融 +6.2%

金利高止まりが利ざやに追い風 + 大手銀行の Q2 好決算

XLV

ヘルスケア +2.5%

テック逃避の受け皿。UNH は決算ビートで逆行高

XLP

生活必需品 +2.4%

ディフェンシブへの資金退避

XLI

資本財 -2.9%

Q2 GDP 速報 +1.5% の下振れが重石

XLK

情報技術 -8.0%

セクター最弱。MSFT +24.6% でも半導体の -20% 台が打ち消した

主要シグナル

月間の相場局面を示す指標 (ブレッドス / VIX / 機関フロー / バリュエーション など)

今月の地合い

分裂 + 審判

指数は横ばいでも、AI 収益化を証明できたかで銘柄が 50pt 超に分かれた

月間の主役

Microsoft +24.58%

Azure 43% 再加速。7/30 の1日時価総額増 約 $450B は米企業史上最大。→ §2

月間の最弱

Tesla -26.01%

EPS 4割ミス + FCF マイナス転落。半導体 SOX も -20.61% で弱気圏。→ §2

長期金利

10Y 4.74% (月間 +32bp)

30年債は 7/29 に 5.21% と2007年来高値。実質金利主導の上昇。→ §4

VIX 月末

15.99

月中最大は 7/29 の 20.66。月末は16割れまで低下

バリュエーション

フォワード P/E 19.6

5年平均 19.9 を下回る水準へ低下。テック調整で過熱解消 (FactSet 7/31)。→ §5

ブレッドス

RSP +1.05% > SPY +0.03%

等加重が時価加重を上回り、物色は AI の外側へ広がった。→ §3

FOMC (7/29)

据え置き 9対3

3地方連銀総裁が利上げを主張して反対。2016年9月以来。→ §4

来月の主要イベント

経済指標・決算・金融政策・政治イベントを重要度順に。時刻は JST 表記。

★★★ 重要度 (5)
JST 8/7 (金) 21:30経済指標

米雇用統計 (NFP、7月)

コンセンサス +110,000〜117,500・失業率 4.2%。FOMC 分裂直後の初の雇用データ

JST 8/12 (水) 21:30経済指標

消費者物価指数 (CPI、7月)

コア前年比 +2.5% 予想。鈍化継続か

JST 8/27 (木) 早朝決算

エヌビディア (NVDA) FY2027 Q2 決算

US 8/26 引け後。AI 収益性審判の第2ラウンド。同日 Salesforce も

JST 8/27 (木) 21:30経済指標

PCE 物価指数 (7月) + Q2 GDP 改定値

コア PCE +3.3% 予想。Fed の物価正本

US 8/27–29 (木–土)金融政策

ジャクソンホール (Warsh 議長講演)

9月 FOMC (9/16-17) への布石。利下げ確率は拮抗

★★ 重要度 (5)
JST 8/3 (月) 23:00経済指標

ISM 製造業景況感指数 (7月)

前回 6月 49.0 と縮小圏。50 回復が焦点

JST 8/13 (木) 21:30経済指標

生産者物価指数 (PPI、7月)

関税の川上コスト。CPI への波及を映す先行指標

JST 8/14 (金) 21:30経済指標

小売売上高 (Retail Sales、7月)

前月比 +0.5% 予想。消費の底堅さ

JST 8/20 (水) 寄り前決算

Walmart (WMT) 決算

小売決算ウィーク。関税環境下の消費の実像

US 8/19 (水)金融政策

Section 338 関税 発効

USMCA 対象品目を含む全カバー品目

⚠️ 注記: 本稿は 7/31 終値の確定値による確報版 (2026-08-03 更新)。初版は月末4営業日を残した 7/27 時点の暫定版で、月間騰落は「S&P500 +0.8%」としていた。その後の FOMC (7/29) とメガキャップ4社決算で相場が大きく動き、確定値は -0.13% に着地した。以下の数値・解釈はすべて確報ベースに差し替えている。

0. 今月のヘッドライン

  • 🏆 今月の主役: 「AI 投資の収益化を証明できたか」という単一の審判軸。7/16 の TSMC、7/22 の Alphabet・Tesla、7/29 の Meta が「売上ビートでも設備投資 (CapEx) 増額で売られる」側に回り、7/29 の Microsoft と 7/30 の AmazonCapEx を増額してなお買われた
  • 🌊 隠れたテーマ: 指数は横ばいでも、中身は 50pt 超に割れた。S&P500 は月間 -0.13% ながら、首位 Microsoft +24.58% と最下位 Tesla -26.01% が同居。半導体 (SOX) は -20.61% の弱気圏、NASDAQ 100 は -6.61%。「Mag7」という括りが説明力を失った月だ。
  • ⚠️ 警戒: 月末の FOMC (7/29) は 9対3 で3地方連銀総裁が利上げを主張して反対 (2016年9月以来)。30年債利回りは 5.21% と2007年以来の高水準をつけ、ダウは -1,153pt と年初来最悪の日を記録した。金利の重石は8月に持ち越されている。
  • 📅 来月の山場: JST 8/27 (木) 早朝のエヌビディア (NVDA) 決算と、US 8/27-29 のジャクソンホール (Warsh 議長講演)。同じ週に7月 PCE も出るため、月末の1週間で8月の方向が決まる。

1. 今月の値動き — 1 ヶ月の弧

🎯 要点: 「7/6-10 に最高値 → 7/16 以降の AI 設備投資ショックで反落 → 月末に FOMC で急落 → 決算2社の急騰で全戻し」という、W 字の月だった。

月間の数字 (確定、基準=6月末終値)

指数7/31 終値月間騰落コメント
SPX7,489.72-0.13%2014年以来11年ぶりの「7月下落」。月中最高値 7,575 (7/10) から反落
Dow 3052,485.03+0.32%4か月連続の月間上昇。「AI 以外」の受け皿
NASDAQ Comp25,373.85-3.20%
NASDAQ 10028,274.20-6.61%下落が超大型テックに集中したことを示す
Russell 20002,931.34-3.08%金利高止まりが中小型を圧迫
SOX 半導体11,311.08-20.61%弱気圏入り
S&P500 等加重 (RSP)215.01+1.05%時価加重 (SPY +0.03%) を上回る

第 1 週 (7/1-3): 7/2 発表の6月 米雇用統計 (NFP) が +57,000 と予想 (110,000-115,000) を大幅に下回り、4・5月合計 -74,000 の下方改定も加わった。利上げ観測が後退してダウは史上最高値をつけた一方、ナスダックは半導体2日続落で割れ、「悪材料=ダウ買い / テック売り」の二極化がこの時点で始まっていた。

第 2 週 (7/6-10): S&P500 は 7,575.39 の史上最高値を更新。ただし物色は AI 計算インフラへ一点集中し、セクター 50日線超はわずか7本と幅は狭かった。この幅の狭さが、その後の脆さの伏線になる。

第 3 週 (7/13-17): 潮目が変わった。7/16 に TSMC が純利益 +77% の記録的決算を出しながら 2026年の設備投資を電撃的に上方修正し、「良い決算でも売られる」パターンが発火。半導体指数が弱気圏へ沈んだ。

第 4 週 (7/20-24): 7/22 引け後の Alphabet・Tesla 決算が決定打となり、翌 7/23 に両社が暴落 (Alphabet は単日で時価総額 -$294B と過去最大の消失)。S&P500 は2週連続の下落となった。

最終週 (7/27-31): 月の性格を決めた4営業日だった。7/27 に Apple が $336.91 の史上最高値で NVIDIA を抜き時価総額世界一を奪還。7/29 の FOMC はタカ派据え置き (9対3) で ダウ -1,153pt と年初来最悪の日に。だが 7/30 に Microsoft が +15.51% (1日の時価総額増 約 $450B は米企業史上最大)、7/31 に Amazon が +15.32% (2012年以来最大) と切り返し、指数は横ばい圏まで戻して月を終えた。同じ最終週に Apple は -7.35%、Meta は -7.95% と沈んでいる。詳細は W31 ウィークリー


2. 今月を定義したテーマ — 深掘り 3 本

2.1 「投じた額」ではなく「変換の効率」が評価軸になった

7月最大の構造変化は、市場が AI 設備投資を評価する物差しが「絶対額」から「収益への変換効率」へ切り替わったことだ。 これは月の前半と後半で見え方が変わったため、途中で読み違えた投資家が多かった論点でもある。

月の前半、市場は単純に「CapEx を増額した企業を罰する」ように見えた。TSMC (7/16)、Alphabet・Tesla (7/22) が順に売られ、CapEx を抑えていた Apple が「AI 投資リスクのない避難先」として買われて時価総額世界一に返り咲いた。ここまでなら結論は「AI 投資を減らせ」だ。

だが月末の4営業日が、その結論を覆した。

企業発表CapEx収益への変換の証拠反応
Meta7/29$130-145B へ増額本業が減益・EPS 13.8% ミス・FCF が $784M へ激減-7.95%
Microsoft7/29四半期 $50B 超へ膨張Azure が 40% → 43% へ再加速、翌 Q に 45% ガイド+15.51%
Amazon7/30$200B → $220B へ増額AWS +36.7% (18四半期ぶり最速) + 営業利益率 +650bp+15.32%
Apple7/30抑制的 (相対的に小さい)6月期は過去最高だが9月期の粗利率が 50.1% → 47〜48% へ-7.35%

CapEx の絶対額で並べれば Amazon の $220B が最大だ。それでも最も買われた。一方、CapEx を最も抑えていた Apple が最も売られた。 前半の「CapEx を増やすと売られる」という理解では、この4日をまったく説明できない。

🎯 要点: 実際の審判軸は「投じた資本が、いつ・どれだけの利益に変わっているか」だった。 成長率の加速と利益率の改善を同時に示せた企業だけが報われ、それができない企業は CapEx の多寡に関係なく売られた。

📚 用語: 投資回収期間 (Payback Period) とは 投じた資本が利益として戻るまでの時間。クラウドのデータセンターは稼働後すぐ課金が始まるため回収が速く、基盤モデルの研究開発や将来プラットフォームへの投資は回収が遅い。金利が高い局面ほど、回収の遅い投資は将来利益として厳しく割り引かれる。7月の 30年債 5.21% という環境は、この差を極端に増幅した。Microsoft と Meta の ±15% の差は、事業の優劣ではなくこの距離の差だった。

2.2 「Mag7」という括りが機能しなくなった

7月の Mag7 (巨大テック7社) の月間騰落は、以下のように散らばった。

銘柄7月月間騰落
Microsoft+24.58%
Amazon+13.95%
Apple+6.76%
NVIDIA+0.33%
Alphabet-0.35%
Meta-1.17%
Tesla-26.01%

首位と最下位の差は 50.6pt。 これは「巨大テック」というグループが、もはや1つの投資対象として扱えないことを意味する。上位3社が二桁のプラス、下位3社がマイナス、NVIDIA がほぼゼロという分布は、ランダムな散らばりではなく §2.1 の審判軸で明確に序列化された結果だ。

🎯 要点: 「AI 関連に投資する」「巨大テックを持つ」という発想が、7月に実効性を失った。 テーマが成熟すると、テーマ内部での選別が始まる。同じ括りの中で 50pt の差がつくなら、それはもう1つの資産クラスではない。

2.3 半導体 -20.61% の中身も割れていた

半導体指数 (SOX) は 6月末の 14,247 から 7/31 の 11,311 へ -20.61% と弱気圏に沈んだ。3月安値からピークまで +105% と熱狂した反動が噴き出した格好だ。

引き金は複合的だった。中国 Moonshot の Kimi K3 が AI のコモディティ化不安を再燃させ、AI 各社が互いに投資・発注し合う「循環的 AI 金融」への疑念、TSMC の CapEx 上方修正が重なった。

ただし半導体の内部も一枚岩ではなかった。 7/30 には SOX が +8.19% と急反発し、その牽引役は Micron (+15〜18%) や SK Hynix (+15.3%) といったメモリ勢だった。AI データセンター向け高帯域メモリ (HBM) の需給逼迫でメモリ価格が高騰しており、実需で稼いでいる企業と、期待で買われていた企業の選別が進んだ形だ。

そして同じメモリ高騰が、Apple には「9月期の粗利率を 50.1% → 47〜48% へ押し下げるコスト増」として作用した。Tim Cook はこれを「メモリ価格の100年に一度の洪水」と呼んでいる。

📚 用語: 投入コストの非対称 (Input Cost Asymmetry) とは ある部材の価格上昇は、それを買う企業には利益率の圧迫、売る企業には収益機会になる。同じ「メモリ価格高騰」というニュースが、Micron を +15〜18% 押し上げ、Apple のガイダンスを削り、Amazon の CapEx 増額の理由になった。ニュースを聞いたら「誰が買う側で誰が売る側か」を最初に整理すると、値動きの方向を読み違えにくくなる。


3. セクター ローテーション — 資金は AI の外側へ

7月のセクター表が示すのは、「テックから逃げた資金がどこへ行ったか」の地図だ (月間騰落の数字は上部のセクターカードを参照。ここでは読み筋を語る)。

最弱は情報技術 (XLK、約 -8%)。 ただし中身は複雑で、最大構成銘柄の Microsoft が +24.58% と急伸したにもかかわらずセクターがマイナスに沈んだ。半導体勢の -20% 台がそれを打ち消したためだ。セクター ETF を「業界への分散投資」と考えていると、この月のような内部分裂を捉えられない

受け皿はエネルギー・金融・ディフェンシブ。 エネルギー (XLE 約 +12%) が首位になったのは中東緊張による原油高で、金融 (XLF 約 +6%) は金利高止まりが利ざやに追い風となった。ヘルスケア・生活必需品も資金の退避先になっている。

ただし中小型は取り残された。 ラッセル2000 は月間 -3.08% と S&P500 (-0.13%) を大きく下回った。等加重 (RSP +1.05%) が時価加重 (SPY +0.03%) を上回ったことから「物色の幅は広がった」と言えるが、その広がりは大型株の中での分散であって、中小型まで届いてはいない。金利が高止まりする局面では、借入依存度が高く利益率の薄い中小型が構造的に不利になる。

🎯 要点: このローテーションが本物かは「RSPSPY を上回り続けるか」と「ラッセル2000 が追いつくか」で判定する。 7月の広がりは、テックからの逃避という受け身の側面が強い。3-12か月の視点では、等加重優位が続き、かつ中小型が金利の重石を跳ね返せるかどうかが、裾野拡大の本物度を測る2つの物差しになる。


4. マクロ環境の総括 — FOMC が月の最後に色を塗り替えた

7月のマクロは「弱い雇用 → 鈍化するインフレ → だがタカ派の FOMC」という、市場の期待を裏切る順序で進んだ月だった。

弧の起点は 7/2 の6月 雇用統計 (NFP) だ。+57,000 と予想を大幅に下回り、下方改定も加わった。ただしインフレが高止まりする中での弱い雇用は「スタグフレーション懸念」を呼び、利下げ観測が素直に強まらなかった。

次の節目は6月の消費者物価指数 (CPI) で、前年比 +3.5% と5月の +4.2% から鈍化。月末 7/31 発表の6月 PCE 物価指数も前年比 +3.7% (5月 +4.1%)、コア PCE は +3.3% と鈍化を確認した。

だが 7/29 の FOMC がすべてを塗り替えた。 FF金利は 3.50-3.75% に据え置かれたが、採決は 9対3。3つの地方連銀総裁が「利上げ」を主張して反対に回った。利上げ方向の反対票が3つつくのは2016年9月以来だ。Warsh 議長は「ソフトなインフレ目標は無い、目標は 2% だけ」とタカ派的なレトリックを展開した。

債券市場はこれを「インフレへの対応が後手」と読み、30年債利回りは 5.21% と2007年以来19年ぶりの高水準へ。同日の原油急騰 (+6.6%) も重なり、ダウは -1,153pt と年初来最悪の日になった。10年債は月間で +32bp 上昇して 4.74% で7月を終えている。

この結果、市場は9月の利上げを本気で織り込み始めた。 CME FedWatch では9月 FOMC での利上げ確率が 57% 超へ上昇し、金利スワップ市場でも約 60% が示された。利上げが単一のシナリオとして最も確率の高い選択肢になったのは、この局面が初めてだ。月初の6月雇用統計 (+57,000 の大幅下振れ) を受けて利下げが議論されていたことを思えば、1か月で市場の想定が180度反転したことになる。

注目すべきは金利上昇の中身だ。月末時点で 10年実質金利は 2.41%、ブレークイーブン インフレ率は 2.28%。名目金利の上昇は期待インフレではなく実質金利側で起きており、これは「インフレ懸念」ではなく「財政・需給・タームプレミアム」が主因であることを示す。株式にとっては、インフレ主導の金利上昇より厳しい形だ。

📚 用語: タームプレミアム (Term Premium) とは 投資家が長期債を持つ見返りに要求する上乗せ金利。将来の金利予想では説明できない部分で、財政不安・インフレの不確実性・需給悪化で拡大する。中央銀行が政策金利を据え置いても、市場が「対応が遅い」と判断すれば長期金利は独りでに上がる。7/29 の 30年債 5.21% がこれで、株式のバリュエーションを直接圧迫した。物価が鈍化しても長期金利が下がらないという7月後半の構図は、これで説明できる。


5. 決算シーズンの総括 — 「EPS +47.4%」を額面通りに読んではいけない

Q2 決算シーズンが残した最大の教訓は、集計値が示す歴史的な好調と、株価の反応の乖離だ (集計値は上部のスコアカードを参照)。

FactSet の 7/31 時点集計 (S&P500 の 61% が報告済み) では、ブレンド EPS 成長率は +47.4% (6月末時点の見通し +23.2% から倍増)、EPS ビート率 86% (5年平均 78%)、EPS サプライズは +31.4% と5年平均 +7.0% の4倍を超えた。数字だけ見れば空前の決算シーズンだ。

だが中身が異常だ。 FactSet 自身が、この成長率の押し上げ要因を Alphabet と Amazon の投資評価益 (valuation gains) と名指ししている。Amazon の GAAP EPS $5.75 のうち大部分は Anthropic への投資評価益 $53.4B という非現金の一過性項目で、事業の実力を示す調整後 EPS は $1.97 だった。

そして FactSet は、2社を除いた数値も併記している。

指標全社ベースAlphabet・Amazon を除く
ブレンド EPS 成長率+47.4%+28.8%
EPS サプライズ+31.4%+9.2%

たった2社を外すだけで、EPS サプライズは5年平均 (+7.0%) 並みまで落ちる。「2008年の集計開始以来で最大級のサプライズ」という見出しの実体は、ほぼ2社の会計上の評価益だったということだ。

実体を示すのは売上成長率 +14.1% (6月末 +12.2% → 7/24週 +13.2% → 7/31 +14.1%) のほうで、こちらは段階的に加速している。売上ベースのビート率も 77% と5年平均 70%・10年平均 68% を上回っており、企業活動そのものは着実に強い

そして市場反応の非対称が7月を定義した。EPS ビート率 86% という歴史的高水準にもかかわらず、ビートした銘柄が報われなかった。 Apple は上振れで -7.35%、Alphabet は売上ビートで単日 -$294B。市場は結果ではなく、その先のガイダンスと投資効率を見ていた。

バリュエーションは月を通して改善した。フォワード P/E は 19.6 と、5年平均 19.9 を下回る水準まで低下している (10年平均 19.0 はやや上回る)。7月のテック調整が過熱を解消した格好だ。

🎯 要点: 局面は「ピーク接近 (peak)」。 決算の絶対的な強さは AI 投資ブームの成熟を示す一方、市場の採点基準が「成長」から「収益性」へ移ったことは、AI 相場が最も熱かった局面を過ぎつつあることを示唆する。これは弱気転換の断定ではなく「同じ EPS 成長でも、収益への変換を示せない成長は評価されなくなった」という質の変化だ。次回の FactSet Update では「評価益を除いた EPS 成長率」を確認したい。集計の詳細は Q2 決算スコアカード (中盤) も参照。


6. 来月の展望 — カレンダーとシナリオ

8月は定例 FOMC が無い月で、金融政策と AI 収益性の両方が月末の1週間に集約される。 すなわちエヌビディア決算 (JST 8/27 早朝)、7月 PCE (同日 21:30)、ジャクソンホール (US 8/27-29) の3つが同じ週に重なる。

来月の経済カレンダー

JST 日付 / 時刻イベント重要度解釈
JST 8/3 (月) 23:00ISM 製造業景況感指数 (7月)★★前回 6月 49.0 と縮小圏。50 回復が焦点
JST 8/7 (金) 21:30米雇用統計 (NFP、7月)★★★コンセンサス +110,000〜117,500・失業率 4.2%。FOMC で3名が利上げを主張して反対した直後の初の雇用データ
JST 8/12 (水) 21:30消費者物価指数 (CPI、7月)★★★コア前年比 +2.5% 予想。鈍化継続か
JST 8/13 (木) 21:30生産者物価指数 (PPI、7月)★★関税の川上コスト。CPI への波及の先行指標
JST 8/14 (金) 21:30小売売上高 (7月)★★前月比 +0.5% 予想
JST 8/20 (木) 03:00FOMC 議事要旨 (7/29 会合)★★★3名の反対の論拠が読める。9月利上げの現実味を測る材料
JST 8/27 (木) 21:30PCE 物価指数 (7月) + Q2 GDP 改定値★★★コア PCE +3.3% 予想。Fed の物価正本

来月の主要決算

US 日付銘柄時間注目 KPI
US 8/4 (火)AMDAMCデータセンター売上。NVIDIA の先行指標
US 8/18-20HD / TGT / WMT寄り前小売決算ウィーク。関税環境下の消費
US 8/26 (水) 引け後NVDAAMC (JST 8/27 早朝)データセンター売上・粗利率。AI 収益性審判の第2ラウンド
US 8/26 (水) 引け後CRMAMCAgentforce の収益貢献

来月のシナリオ — 強気 / 弱気の分岐点

  • 強気シナリオ: NFP (8/7) が +110,000 前後の軟着陸的な数字に着地し、CPI (8/12) のコアが +2.4% 以下へ沈静化。エヌビディアが粗利率とガイダンスで AI 収益性の懸念を払拭すれば、9月利下げ織り込みが上昇し、物色が AI の外側にも広がって S&P500 は 7,600〜7,750 を試す
  • 弱気シナリオ: PPI (8/13) の高止まりと CPI コアの再加速で「関税インフレの二次波及」が顕在化、原油が $90 超へ再上昇。エヌビディアが慎重なガイダンス、あるいはジャクソンホールで Warsh がタカ派を強めれば、30年債が 5.3〜5.4% へ上昇し、夏枯れの薄商いも重なって S&P500 は 7,200〜7,300 へ調整
  • 分岐点: 最大の不確実性は、JST 8/27 前後に集中する「トリプル催事」。エヌビディア決算・PCE/GDP・ジャクソンホールで、AI 収益性・物価・金融政策の3テーマが同じ週に動く。判断材料の閾値は、コア PCE 前年比 (3.3% 超で利下げ観測後退)、10年債 (4.80% 超で株売り加速)、30年債 (5.3% 超で警戒)、VIX (20 超で夏枯れボラの本格化)、WTI ($85 超で物価の二次波及シグナル) の5つに置くとよい

季節性・アノマリー — 来月はサイクルのどこか

いまは 5〜10月のSell in May悪い半年』の後半にあたる。8月と9月は S&P500 で唯一「連続して平均マイナス」となる暦月の組み合わせで、8月は1975年以降で年間3番目に弱い月 (平均約 +0.21%)、9月は1950年以降で上昇確率が50%を割る唯一の月 (平均 -0.7%・上昇確率44%)。1950年以降の月間 -10% 超の急落9回のうち6回が8〜11月に集中している。

2026 は中間選挙年で、歴史的には年前半の軟調 → 秋に底 → 年末反発が定番のパターンでもある。ただしアノマリーは『過去の平均的な傾き』であって毎回当たるものではない。7月がそうだったように、AI 相場という強い個別要因があれば季節性は簡単に上書きされる。夏枯れで流動性が薄くなる分だけ値動きが増幅されやすい、という需給面の注意として押さえておくのが正しい使い方だ。


7. 今月の学び — 長期投資家として覚えておくべきこと

7月の教訓を一言でまとめれば「テーマが成熟すると、テーマ内部での選別が始まる」。 「AI 関連だから」「巨大テックだから」という括りでの判断が、この月に実効性を失った。

用語 / 概念

  1. 投資回収期間 (Payback Period) — 投じた資本が利益として戻るまでの時間。金利が高い局面ほど、回収の遅い投資は厳しく割り引かれる。7月に Microsoft (+24.58%) と Meta (-1.17%) を分けたのは事業の優劣ではなく、この距離の差だった。CapEx のニュースを見たら「その投資はいつ課金が始まるのか」を必ず考える。
  2. 投入コストの非対称 (Input Cost Asymmetry) — 部材価格の上昇は、買う企業には利益率の圧迫、売る企業には収益機会になる。「メモリ価格の高騰」という単一の材料が、Micron を +15〜18% 押し上げ、Apple のガイダンスを削り、Amazon の CapEx 増額の理由になった。
  3. 会計上の利益と現金の乖離 — FactSet のブレンド EPS 成長率 +47.4% の大半は投資評価益という非現金項目だった。集計データを見るときは「その数字が現金を伴っているか」を必ず確認する。7月は売上成長率 +14.1% のほうが実体を映していた。

パターン / 経験則 (1 つ)

  • 同じテーマに晒された銘柄群を「1つの塊」として予想すると、テーマの成熟期には外れる。 7月の Mag7 は首位 +24.58% と最下位 -26.01% で 50pt 超の格差がついた。テーマ発生期には「AI 関連が全部上がる」局面があり、成熟期には「同じテーマ内で勝者と敗者が分かれる」局面が来る。格差 (分散) が広がり始めたら、テーマ単位の判断から企業単位の判断へ切り替えるサインだと考える。

監視指標の閾値表

指標7/31 値警戒水域含意
VIX15.99> 20 で警戒、> 25 で守備月末は落ち着き。月中最大は 7/29 の 20.66
10Y Yield4.74%> 4.80% で株売り加速月間 +32bp。警戒線に接近
30Y Yield5.21% 近辺> 5.25% 定着で株圧迫2007年来高値圏で高止まり
10Y 実質金利2.41%> 2.5% で株に本格逆風金利上昇の主因は実質側
フォワード P/E19.65年平均 19.9 との比較平均を下回り過熱は解消
半導体 SOX11,311ピーク比 -20% で弱気圏底入れするか、下値を探るかが8月の焦点

8. データソース・引用

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