MARKET INSIGHT · Q2 決算スコアカード (中盤)
ピーク接近S&P500 決算スコアカード — Q2 中盤、ブレンド EPS +37.9% は 2021 以来最高。だがその正体は Alphabet 1 社の $99B 評価益で、除けば +25.9%
S&P500 の Q2 2026 決算シーズンが中盤に入った (FactSet 7/24 時点・27% 報告済み)。ブレンド EPS 成長率 +37.9% は 2021 年以来最高だが、その大半は Alphabet の株式評価益 $99B による会計上の膨張で、FactSet 自身が『Alphabet 1 社で指数の利益ドル増加額の 92% を占める』と注記する。Alphabet を除けば +25.9% で、LSEG の non-GAAP ベース +24.4% とほぼ一致する。EPS ビート率は 86% と歴史的高水準なのに株は売られる『非対称相場』で、Alphabet はビートでも -7.1%、Tesla はミスで -14.5%。市場の採点基準が『成長』から『AI CapEx の回収』へ移った。ハイパースケーラーの 2026 CapEx 合計は $725-760B (前年比 +77%) に膨らみ、業界全体の FCF は前年比 -91% へ。フォワード P/E 20.1 は 5/10 年平均をやや上回る過熱一歩手前。序盤版 ([7/11](/market-insight/2026-07-11-q2-earnings-scorecard-early/)) の答え合わせを、FactSet + LSEG + 複数ソースで整理する。
ブレンド EPS +37.9% は 2021 以来最高だが、その正体は Alphabet の $99B 評価益 — 除けば +25.9%。ビート率 86% でも株は売られる非対称相場
集計スコアカード
FactSet 7/24 時点 (Q2 中盤・27% 報告済み)
ブレンド EPS 成長率 (Q2)
+37.9%
Alphabet 除き +25.9% / 6月末 +23.2% → 現在。2021 以来最高
ブレンド売上成長率 (Q2)
+13.2%
6月末 +12.2% → 現在。2022 Q2 以来の高水準
EPS ビート率
86%
5年平均 78% / 10年平均 76%。でも株は売られた
売上ビート率
80%
5年平均 70% / 10年平均 68%
EPS サプライズ幅
+39.3%
Alphabet 除き +12.6% (異常値で歪む)
報告済み割合
27%
本番は最終週 (MSFT/Meta/Apple/Amazon)
フォワード 12M P/E
20.1
5年 19.9 / 10年 19.0 (過熱一歩手前)
CY2026 予想 EPS 成長率
+27.3%
Q3 +27.3% → Q4 +24.9% (減速見通し)
ビート/ミスの市場反応
ビート銘柄の反応
「ビートしても売られる」— Alphabet は売上/EPS ビート・Google Cloud +82% でも 2026 CapEx 増額で 7/23 に -7.1% (単日 -$294B、同社史上最大)
ミス銘柄の反応
ミスは過剰に罰される — Tesla は EPS 4 割ミス・FCF マイナス転落で 7/23 に -14.5%、週間 -19%。Mag7 は 7/23 だけで約 $800B 消失
バリュエーション (フォワード P/E)
複数ソースのクロスチェック。水準は 5/10 年平均との比較で見る。
| ソース | フォワード P/E | 5年平均 | 10年平均 | 補足 |
|---|---|---|---|---|
| FactSet | 20.1 | 19.9 | 19.0 | 7/24 時点。6/30 の 20.4 からやや低下 (EPS 上振れが分母を押し上げ) |
| MacroMicro / Yardeni | 20.1 | — | — | 20 倍超で整合。別ソース検証。LSEG は EPS 成長率を +24.4% と集計し FactSet の Alphabet 除き +25.9% を裏づけ |
マクロ予想 (発表前コンセンサス)
US 7/29。Warsh 議長会見。9 月利上げ確率は 50.6% へ上昇
時価総額の過半。CapEx ガイダンスへの反応で集計と相場が大きく動く
注目ポイント
- Alphabet 1 社で当該期間の指数の利益ドル増加額の 92% を占める ($99B の未実現評価益)。FactSet の +37.9% は GAAP 由来の異常値、実勢は Alphabet 除きの +25.9% (LSEG non-GAAP +24.4% とほぼ一致)
- Mag 7 +31.1% vs その他 493 社 +22.8% と益成長の裾野は拡大。だが Micron・NVIDIA を除くと +16.8% で、成長の核は半導体/AI に集中
- 11 セクター中 10 増益・7 セクターが二桁成長。エネルギー +128.2%・通信 +112.4% (Alphabet で歪む)・情報技術 +64.6% が先導、ヘルスケアのみ減益
- ハイパースケーラー 2026 CapEx 合計 ~$725-760B (前年比 +77〜84%)。業界全体で純利益 +25% でも合計 FCF は前年比 -91% の約 $16B へ — 減価償却が『記録的利益の最大の落とし穴』
0. ヘッドライン
Q2 2026 決算シーズンが中盤に入った (FactSet 7/24 時点・27% 報告済み)。集計のヘッドラインは「ブレンド EPS +37.9% で 2021 年以来最高」と極めて強いが、その正体は Alphabet 1 社の $99B 評価益による会計上の膨張です。除けば +25.9%——集計は 1 社に激しく歪められています。
局面は ピークアウト (peak) 接近。決算は絶好調 (ビート率 86%) なのに株は売られる「非対称相場」で、市場の採点基準が「成長」から「AI CapEx の回収」へ移りました。序盤版 (7/11) の「保守的な出発点」がどう伸びたかの答え合わせを、FactSet + LSEG + 複数ソースで整理します。
🎯 要点: ヘッドラインの +37.9% は GAAP 由来の異常値で、実勢は Alphabet 除きの +25.9% (LSEG non-GAAP +24.4% とほぼ一致)。ビート率 86% と歴史的高水準でも株は売られており、「好業績はすでに織り込み済みで、CapEx の増額と FCF 悪化だけがサプライズになる」高値圏の非対称が続いている。
数値スコアカード・バリュエーション・目標株価は ページ上部にカード表示しています。本文では数字を繰り返さず、「その数字をどう読むか」に集中します。
1. 益成長の正体 — 「+37.9%」は 1 社が作った幻か
ブレンド EPS 成長率 +37.9% は 2021 年以来最高だが、この数字を額面通りに受け取ってはいけません。 今回いちばん重要な読み筋なので、丁寧に解きます。
FactSet 自身が異例の注記を出しています。「Alphabet 1 社で、当該期間の指数の利益ドル増加額の 92% を占める」。Alphabet の Q2 GAAP 純利益は前年比 +298% だが、その大半は保有株式の未実現評価益 $99B という会計上の一時要因だ (Alphabet 決算記事参照)。この 1 社の膨張が集計全体を押し上げ、6/30 時点の +23.2% から +37.9% へと 2 週間で見かけ上 14.7 ポイントも跳ね上がった。
では実勢はどこか。FactSet は「Alphabet を除けば +25.9%」と示している。この値は、独立系の LSEG (I/B/E/S、non-GAAP ベースで未実現益を含まない) が集計した +24.4% とほぼ一致する。2 つの独立ソースが同じ水準を指しているので、Q2 の「本当の」益成長は 25% 前後と読むのが頑健だ。+37.9% を鵜呑みにすれば、AI 相場の実力を過大評価してしまう。
もっとも、+25.9% でも十分に強い。ビート率 86%・売上ビート率 80% はいずれも 5 年平均を明確に上回り、報告済み企業の質は本物だ。売上成長率 +13.2% も 2022 年 Q2 以来の高水準。問題は「成長が弱い」ことではなく、「その強い成長が、なぜか株価に報われていない」ことにある (→ §2)。
📚 用語: 未実現評価益 (Unrealized Gains) とは 保有する株式などの資産が値上がりしたとき、まだ売っていなくても会計上「利益」として計上される評価上の含み益のこと。実際に現金が入ったわけではなく、株価が下がれば評価損に転じる。GAAP (米国会計基準) の純利益にはこれが混じるため、企業の「本業の稼ぐ力」を見るには、これを除いた non-GAAP や調整後の数字で読む必要がある。Alphabet の $99B がまさにこれで、S&P500 全体の集計まで歪めた。
2. 非対称相場 — なぜ「ビートしても株は売られた」のか
7 月の決算シーズン最大の教訓は、「ビート率が歴史的高水準でも、株価は報われないことがある」という市場反応の非対称性です。 数字は絶好調、それでも売られた——この歪みこそが Q2 中盤を定義しました。
象徴が 2 社ある。Alphabet は売上・EPS ビート・Google Cloud +82% と絶好調でも、2026 CapEx を $195-205B へ増額したことで 7/23 に -7.1% (単日 -$294B、同社史上最大の時価総額消失)。Tesla は EPS が予想を 4 割下回り FCF がマイナス転落して -14.5%。この 2 社を含む Mag7 は、7/23 の 1 日だけで約 $800B の時価総額を失った。
なぜこうなるのか。市場は「ビート」という好材料を無視し、AI 設備投資 (CapEx) の絶対額とフリーキャッシュフロー (FCF) の劣化だけを罰した。好業績はすでに株価に織り込まれ、CapEx 増額と FCF 悪化が唯一のサプライズになる——これが高値圏特有の非対称だ。「AI 成長」を評価する局面から「AI 収益性」を要求する局面へ、採点基準が反転した瞬間だった。
📚 用語: 市場反応の非対称性とは 好決算 (ビート) に株価が素直に反応せず、悪材料 (ミス・ガイダンス下方修正・CapEx 増額) だけに大きく反応する状態のこと。強気相場が成熟し「好業績は当然」と織り込まれた高値圏で現れやすい。ビートの報酬が消え、失望の懲罰だけが効くため、決算が全体として好調でも指数は伸び悩む。局面転換の最速シグナルとして、決算シーズンには毎週追う価値がある。
3. バリュエーション — 「過熱一歩手前」で緩衝材が薄い
フォワード P/E は FactSet・MacroMicro とも 20.1 で、5/10 年平均をやや上回る「過熱一歩手前」。割高さが下落の緩衝材を失わせています。
複数ソースのクロスチェックから。FactSet (7/24) は 20.1、別系統の MacroMicro / Yardeni も 20 倍超で整合する。FactSet の 5 年平均は 19.9、10 年平均は 19.0 だから、いずれの物差しでも現在はやや割高圏にある。6/30 時点の 20.4 からはむしろ低下しているが、これは記録的な EPS 上振れ (分母) が P/E を押し下げたためで、「株価が安くなった」わけではない。
「割高 = 即危険」ではないが、緩衝材は薄い。2020-21 のバブル期の 23 倍超には程遠く、+25% 前後の実勢益成長が続けば 20.1 は正当化されうる。だが逆に言えば、成長ストーリーに疑問符がつけば真っ先に P/E 拡張ぶんが剥落する。7 月の Alphabet・Tesla の急落は、まさにその「割高さゆえの緩衝材の薄さ」が CapEx 懸念で顕在化した例だった。
📚 用語: フォワード P/E (Forward Price-to-Earnings) 今後 12 ヶ月の予想 EPS で株価を割った株価収益率。過去実績ベースの P/E より先を見る。水準だけでは割高・割安を判断できず、その指数自身の 5 年・10 年平均と比べて相対評価するのが基本。益成長率が高い局面では高い P/E が正当化されうるため、必ず成長率とセットで見る。
4. AI CapEx — 記録的利益の裏に潜む「最大の落とし穴」
このシーズン最大のテーマは、記録的な利益の裏で AI 設備投資 (CapEx) がフリーキャッシュフローを食い尽くし始めたことです。 利益とキャッシュの乖離が、株価が売られる構造的な理由になっています。
ハイパースケーラー (Microsoft・Alphabet・Amazon・Meta) の 2026 年 CapEx 合計は約 $725-760B、前年比 +77〜84% に膨らむ見通しだ。Alphabet は Q2 の CapEx が $44.9B (+107%) に達し、FCF が上場来初のマイナス ($-5.9B) に転落した。業界全体でも、純利益は +25% 増える一方で、合計 FCF は前年比 -91% の約 $16B まで落ち込むという歪みが生じている。
さらに見落とされがちなのが減価償却の問題だ。$760B の投資のうち、費用として今すぐ認識されるのは一部で、大半は簿価に計上され後年の減価償却として利益を圧迫していく。いま報告されている記録的利益には、将来の巨額の減価償却がまだ反映されていない。これが「record earnings の最大の落とし穴」と呼ばれる所以で、AI 投資の「請求書」は数年かけて利益に効いてくる。
5. セクターの偏り — 10 セクター増益、だが成長の核は半導体/AI
11 セクター中 10 が増益で、益成長の裾野は広がっています。だが成長の核は依然として半導体/AI に集中しています。
セクター別で突出するのはエネルギー +128.2% (前年の原油安の反動)、通信サービス +112.4% (Alphabet で大きく歪む)、情報技術 +64.6%。11 セクター中 10 が増益で、7 セクターが二桁成長という広がりを見せる。唯一の減益はヘルスケアのみだ。
一方で、Mag7 とその他 493 社の分解を見ると、成長の偏在がわかる。Mag7 +31.1% vs その他 493 社 +22.8% と差は縮小傾向で、493 社も二桁成長と底上げが効いている。だが FactSet は「Micron・NVIDIA を除くと +16.8%」とも指摘しており、成長の核が半導体/AI インフラに集中していることを示す。裾野は広がりつつも、相場を牽引する「エンジン」は依然として AI 関連という構図だ。
6. 長期投資家への含意 — 「本番は最終週」を持ち越して待つ
局面はピークアウト接近。ヘッドラインの絶好調に惑わされず、採点基準が「成長」から「収益性」へ移ったことを踏まえて、最終週の答え合わせを待つ段階です。
日本人投資家の視点で 3 つの構えに整理する。第一に、集計のヘッドライン (+37.9%) を鵜呑みにしない。Alphabet 除きの +25.9%・LSEG の +24.4% を実勢として読む。第二に、「ビートしても売られる」非対称を前提に決算を見る。EPS のビート幅だけで判断すると火傷する。CapEx ガイダンスへの反応こそが株価を決める。第三に、フォワード P/E 20.1 の割高さは緩衝材が薄いと理解する。成長が折れれば P/E 拡張ぶんが真っ先に剥落する。
本番はまだ来ていない。 S&P500 の時価総額の過半を占める Microsoft・Meta・Apple・Amazon の決算が US 7/29-30 に集中しており、Q2 の最終着地はこの最終週で大きく動く。加えて JST 7/30 (木) 03:00 の FOMC が金利の綱引きを決着させる。次回 Update で確認すべき 3 点は、① メガキャップ 4 社後にブレンド成長率と Alphabet 除きの値がどう動くか、② 4 社が Alphabet・Tesla と同じ「好決算でも CapEx で売られる」反応を続けるか、③ FCF 圧迫が市場心理をどこまで冷やすか、だ。
📚 用語: フリーキャッシュフロー (FCF) とは 営業キャッシュフロー (本業で稼いだ現金) から設備投資 (CapEx) を差し引いた、企業が自由に使える現金のこと。配当・自社株買い・借金返済の原資であり、「本当に使える利益」を示す。AI 各社が GPU・データセンターに巨額を投じると CapEx が膨らみ FCF を圧迫する。2026 年夏の市場が問うたのは「EPS がいくら伸びたか」ではなく「その成長のために FCF をどこまで削っているか」だった。
7. 出典・データの扱い
本記事は FactSet の一次データを軸に、独立系の LSEG・別系統ソースと自ブログの決算記事を照合した独自解釈です。
本記事の中核は FactSet Earnings Insight の 7/24 版 と、Alphabet の歪みを詳述した 7/27 記事、Mag7 分解の 7/20 記事です。実勢の裏づけとして独立系の LSEG (I/B/E/S) の non-GAAP 集計 (+24.4%) を照合し、FactSet の Alphabet 除き +25.9% とほぼ一致することを確認しました。ハイパースケーラーの CapEx 合計と FCF 圧迫は Yahoo Finance と RIA の減価償却分析、個別決算は当ブログの Tesla・Alphabet 決算記事に基づきます。序盤 (7/11) からの推移は 序盤版と比較して「推定の進化」を追跡しています。
⚠️ 注記: 数値はすべて FactSet 7/24 (金) 時点・27% 報告済みです。時価総額の過半を占める Microsoft・Meta・Apple・Amazon が US 7/29-30 に報告するため、ブレンド成長率・ビート率・市場反応は最終週で大きく動きます。中盤の数字を「シーズンの結論」として扱わないでください。特にブレンド EPS +37.9% は Alphabet の会計要因で歪んでおり、実勢の +25.9% を主として読んでください。
⚠️ 本記事は FactSet Insight 等の公開データを複数ソースで照合し、編集部の解釈を加えた独自分析です。各社の元レポートへは出典リンクからアクセスしてください。投資勧誘や個別銘柄の売買推奨ではありません。投資判断はご自身の責任で行ってください。
出典・データソース
- FactSet Earnings Season Update (7/24)
- FactSet: Alphabet Drives S&P 500 Earnings Growth to Highest Since 2021 (7/27)
- FactSet: Are Mag 7 Still Top Contributors for Q2? (7/20)
- LSEG: Q2 Growth Expectations Top 20% (Dhillon, I/B/E/S)
- Yahoo Finance: Hyperscaler capex set to reach $725B in 2026
- RIA: AI Capex Depreciation Risk Is the Catch to Record Earnings
- 当ブログ: Q2 決算スコアカード (序盤・7/11)
同じテーマ (決算スコアカード) の過去レポート
決算スコアカード · Q2 2026 · 2026年7月11日(土)
S&P500 決算スコアカード — Q2 序盤 18 社でビート率 89%、だが本番は来週。『予想は保守的』と読む 3 つの数字
決算スコアカード · Q2 2026 · 2026年6月28日(日)
Q2 2026 決算プレビュー — EPS +23% 成長・利益率 14.2%・ポジティブガイダンス過去最高、だが Warsh FOMC のタカ派転換が割高 P/E を試す
決算スコアカード · Q1 2026 · 2026年5月08日(金)
S&P500 決算スコアカード — Q1 EPS +27.7% は 2021 以来の最高益成長、だが上値は織り込み済み
関連デイリー