本文へスキップ
Bull Note米国株 デイリー戦略ノート

WEEKLY · 2026 / W32

2026/08/03–07 週 (W32) — 雇用が -2.3 万人と減少した週に NASDAQ が +5.19%。9 月利上げ確率 67% → 44.4% が全てを動かした

US 8/3–7 の週は、S&P500 +3.58% (7,757.64)・NASDAQ +5.19% (26,690.62)・半導体 (SMH) +7.80% と全面高で終わった。だが週の中身は「経済が弱いから株が上がった」という倒錯した構造である。8/7 発表の 7 月米雇用統計 (NFP) は非農業部門雇用者数が -2.3 万人と減少し (予想 +8 万人前後)、5・6 月分も合計 -10.3 万人の下方改定を受けた。労働参加率は 61.4% と 5 年以上ぶりの低水準へ沈んでいる。これを受けて CME FedWatch の 9 月 +25bp 利上げ確率は 67% から 44.4% へ低下し、株式・金・債券が同時に買われた。前週から持ち越された「株と金が同じニュースを逆に読んでいる」という対立は、利上げ観測の後退という共通の材料が現れたことで、両者が同じ符号で読む形に解消している。金は週間 +7.20%、銀は +9.3%。一方エネルギー (XLE) だけが原油 -7.67% を受けて -3.44% と唯一の大幅安セクターになった。

執筆: kinjo24 分で読了中立

雇用が減った週に株が最も上がった。景気の弱さが利上げ観測を削り、それを株も金も同じ符号で買った 5 営業日。

今週のまとめ

US 8/3–7 は S&P500 +3.58%・NASDAQ +5.19%・半導体 +7.80% の全面高だが、上昇の理由は経済の弱さだった。8/7 の 7 月雇用統計は非農業部門雇用者数 -2.3 万人 (予想 +8 万人前後) と減少に転じ、5・6 月分も合計 -10.3 万人の下方改定。平均時給の前年比は 3.2% と 2021 年 5 月以来の低さ、労働参加率 61.4% は 5 年以上ぶりの低水準となった。これで CME FedWatch の 9 月 +25bp 利上げ確率は 67% → 44.4% へ低下し、株式と金が同時に買われた (金は週間 +7.20%、銀 +9.3%)。前週のデイリーが指摘した「株と金が逆を読んでいる」対立は、利上げ観測の後退という共通材料の出現で、同じ符号で読む形に解消している。一方エネルギーは原油 -7.67% を受けて -3.44% と唯一の大幅安セクターとなり、勝ち頭の半導体との差は 11pt を超えた。

週末マーケット スナップショット

SPX+3.58%

S&P 500 (週次)

7,757.64

+267.92

IXIC+5.19%

NASDAQ Comp (週次)

26,690.62

+1,316.77

NDX+5.12%

NASDAQ 100 (週次)

29,722.30

+1,448.10

DJI+2.96%

Dow (週次)

54,036.93

+1,551.90

RUT+3.52%

Russell 2000 (週次)

3,034.49

+103.15

VIX6.82%

VIX (週末終値)

14.90

-1.09

US10Y1.79%

10Y Yield (週末)

4.66

-0.08

USDJPY1.11%

USD/JPY (週末)

158.41

-1.77

SPX
+3.58%
IXIC
+5.19%
NDX
+5.12%
DJI
+2.96%
RUT
+3.52%
VIX
-6.82%
US10Y
-1.79%
USDJPY
-1.11%
主要指数の週次騰落 (%)。中央が 0、緑=上昇・赤=下落で、バー長は変化率の大きさに比例。

主要シグナル

空売り比率 / AD ライン / Put/Call / VIX / 機関フロー など (週次)

今週の地合い

全面高 (理由は弱さ)

4 指数すべて +2.9% 以上。だが牽引したのは景気減速による利上げ観測の後退

勝ちセクター

情報技術 +7.20%

半導体 (SMH) は +7.80%。金利低下の恩恵を最も受ける長期成長株が主役

負けセクター

エネルギー -3.44%

原油が週間 -7.67%。唯一の大幅安セクターで、勝ち頭との差は 11pt 超

最大の異常値

金 +7.20%

週足で 4,340.7。株と同時に急騰したが、買った理由は正反対

雇用の転換

NFP -2.3 万人

予想 +8 万人前後に対し減少。5・6 月分も合計 -10.3 万人の下方改定

VIX 週末

14.90

週初比 -6.82%。8/4 の 16.50 から一貫して低下した

利上げ観測

9 月 67% → 44.4%

CME FedWatch の +25bp 織り込み。据え置き確率は 45% → 60% へ上昇

来週の山場

JST 8/12 (水) 21:30

7 月 消費者物価指数 (CPI)。その 4 時間半後に 10 年債入札 $420 億

来週の主要イベント

経済指標・決算・金融政策・政治イベントを重要度順に。時刻は JST 表記。

★★★ 重要度 (6)
JST 8/12 (水) 06:00決算

CoreWeave (CRWV) 決算 (US 8/11 引け後)

AI データセンター需要の川下。受注残とガイダンス

JST 8/12 (水) 21:30経済指標

7 月 消費者物価指数 (CPI)

コアが +0.4% 以上なら 9 月利上げが再浮上する

JST 8/13 (木) 02:00金融政策

10 年債入札 $420 億

CPI の 4 時間半後。長期債の需要が試される

JST 8/13 (木) 21:30経済指標

7 月 生産者物価指数 (PPI)

CPI と符号が揃うかで確度が決まる

JST 8/14 (金) 05:30決算

Applied Materials (AMAT) 決算 (US 8/13 引け後)

半導体製造装置。AI 投資サイクルの川上

JST 8/14 (金) 21:30経済指標

7 月 小売売上高 (Retail Sales)

雇用が減る中で消費が保つか

★★ 重要度 (1)
JST 8/13 (木) 05:30決算

Cisco (CSCO) 決算 (US 8/12 引け後)

AI ネットワーク層の受注

重要度 (1)
JST 8/11 (火) 19:00経済指標

NFIB 中小企業楽観指数 (7 月)

雇用計画 DI が NFP の減少を裏書きするか

0. 今週のヘッドライン

  • 🏆 今週の主役: 半導体 (SMH) +7.80% と情報技術 (XLK) +7.20%。7 月雇用統計の弱さが 9 月利上げ確率を 67% から 44.4% へ引き下げ、金利感応度の最も高い長期成長株に資金が戻った
  • 🌊 隠れたテーマ: 上昇の理由が「経済が強いから」ではなく「経済が弱いから」だった。雇用が減少に転じ、過去 2 か月分も -10.3 万人下方改定された週に、NASDAQ が +5.19% と年内屈指の上昇を記録している
  • ⚠️ 警戒: 半導体高の一因は AI 特化ヘッジファンドの強制清算が終わったという需給の出尽くしで、基調の強さとは別物。週足の +7.80% をそのまま実力と読むと過大評価になる
  • 📅 来週の山場: JST 8/12 (水) 21:30 の 7 月 消費者物価指数 (CPI)。その 4 時間半後に 10 年債入札 $420 億が控える

1. 今週の振り返り — 5 営業日で何が起きたか

🎯 要点: この週の全面高は、好調な経済の反映ではない。 雇用が減少し、労働参加率が 5 年以上ぶりの低水準へ沈んだことで 9 月利上げの可能性が後退し、それを株式が買った。上げの燃料は景気の弱さそのものだった。

週次の数字

指数週末終値週次騰落コメント
S&P 5007,757.64+3.58%4 週ぶりの大幅高。7/31 比 +267.92pt
NASDAQ Comp26,690.62+5.19%週次で +1,316pt。金利低下の恩恵が最も大きい
NASDAQ 10029,722.30+5.12%同上
Dow 3054,036.93+2.96%週中の 8/5 に 54,349.12 の最高値をつけた
Russell 20003,034.49+3.52%小型株も足並みを揃えた
VIX14.90-6.82%週を通して一貫して低下
10Y Yield4.66%-8bp雇用統計を受けて低下
WTI 原油$78.18-7.67%週間で最大の下落資産
金 (先物)$4,340.7+7.20%週間で最大の上昇資産
USD/JPY158.41-1.11%ドル安方向

セクターは明確に二極化した。上位は半導体 (SMH) +7.80%・情報技術 (XLK) +7.20%・素材 (XLB) +4.82%、下位はエネルギー (XLE) -3.44%・公益 (XLU) -1.67%・不動産 (XLRE) -0.20%。勝ち頭の半導体と負け頭のエネルギーの差は 11pt を超えている。

今週の 4 大ドライバー

① 7 月米雇用統計 (NFP) が減少に転じた — 週の全てを決めた 1 つの統計

JST 8/7 (金) 21:30 に発表された 7 月の米雇用統計は、市場の想定を明確に下回った。

項目実績予想前月
非農業部門雇用者数 (NFP)-2.3 万人+8 万人前後+2.0 万人 (改定後)
失業率4.1%4.2%4.2%
平均時給 (前月比)+0.1%+0.3%
平均時給 (前年比)3.2%
労働参加率61.4%61.6%

この統計の肝は、見出しの -2.3 万人ではなく過去分の改定にある。 5 月・6 月分が合計 -10.3 万人の下方改定を受けており、改定を含めた実質的なインパクトは -12.6 万人に達する。過去 1 年の月平均増加は +3 万人前後まで落ちており、この水準ではマイナスの月が出ること自体は統計的に自然である。

内訳を見ると、民間部門は +3.0 万人とプラスを維持しており、全体をマイナスに沈めたのは政府部門の -5.3 万人である。とりわけ地方政府の教育が -5.0 万人と異例の減少を示しており、この部分は翌月に反転する可能性がある。ほかにレジャー・宿泊 -4.0 万人、小売 -1.9 万人、金融 -1.4 万人が減った一方、建設 +2.2 万人、ヘルスケア・教育 +2.5 万人、専門サービス +1.8 万人は増えている。一様な悪化ではなく、特定業種に偏った減少である点は押さえておきたい。

注意すべきは失業率が 4.2% から 4.1% へ「改善」している点だ。 これは職を得た人が増えたからではなく、労働力人口が -26.4 万人減ったことによる低下で、家計調査ベースの就業者数も -8.7 万人減っている。労働参加率 61.4% は 5 年以上ぶりの水準だ。分母が縮んで比率が下がる形の低下であり、内容は改善ではない。

平均時給は前月比 +0.1%・前年比 3.2% で、前年比は 2021 年 5 月以来の低さである。賃金の伸びが鈍るということは、賃金からサービス価格へ波及するインフレ経路が弱まるということで、FRB が利上げを正当化する根拠が 1 つ削られたことを意味する。

📚 用語: 労働参加率 (Labor Force Participation Rate) とは 16 歳以上の人口のうち、働いているか職探しをしている人の割合。失業率の分母を決める数字である。失業率が下がっても労働参加率が同時に下がっている場合、それは雇用が増えたのではなく、職探しを諦めた人が統計から抜けただけの可能性が高い。失業率だけを見ると労働市場を強く誤読するため、必ず 2 つをセットで確認する。

② 株と金の対立が、「同じ符号で読む」形で解消した

前週のデイリーで指摘した構図を思い出したい。US 8/5 (水) の時点で、株式はホルムズ海峡の再開協議を「リスクオン」として買い、同じ日に金 (GLD) は +4.14% と急騰していた。和平が本当に進むなら安全資産の金は売られるはずで、この 2 つの解釈は両立しない。どちらかが後で修正を迫られる、というのが当時の見立てだった。

この週、対立は決着したが、決着の仕方は「どちらかが負けた」ではなかった。 8/7 の雇用統計を境に、株式と金は同じニュースを同じ符号で読む関係に切り替わった。両者が揃って買われたのである。

鍵は、いま米国が利上げ局面にあることだ。7 月雇用統計の弱さは「利下げが近い」ではなく「9 月の利上げが正当化できなくなった」を意味する。CME FedWatch の 9 月 +25bp 利上げ確率は 7/31 時点の 67% から 8/7 に 44.4% へ低下し、据え置き確率は 8/6 の 45% から 60% へ上昇した。

この 1 点から、株式と金の上昇が同時に説明できる。利上げ観測の後退 → 名目金利・実質金利の低下期待 → デュレーションの長い成長株が買われ、金利を生まない金も買われる。 平均時給の前年比が 3.2% と 2021 年 5 月以来の低さに沈んだことが、賃金からサービス価格へ波及する経路を弱め、この解釈を決定づけた。金は 8/7 だけで 1 オンス +$100 超、週間 +7% 超と 1 月以来最大の上昇を記録し、銀は週間 +9.3% とさらに上回っている。

一方の原油は週間 -7.67% と急落した。ホルムズ再開への期待が価格に入った結果で、地政学の材料は、株式ではなく原油にだけ効いていたことになる。前週の「株と金が逆を読んでいる」という緊張は、労働市場という共通の材料が現れたことで解消した。

⚠️ 注記: この局面で最も誤りやすいのが「弱い経済指標 → 利下げ期待 → 株高」という反射的な読み替えである。2026 年 6 月の FOMC でタカ派へ転換して以降、市場が織り込んでいるのは利下げではなく利上げの回数であり、弱い指標は「利上げが遠のく」として効く。符号は同じでも経路が違うため、「利下げ期待で上がった」と書くと事実と食い違う。

📚 用語: 実質金利と金の関係 金は利息も配当も生まない。したがって金の魅力は「金利のある資産をあきらめる代償 (機会費用)」で決まる。名目金利からインフレ率を引いた実質金利が下がるほど、金を持つ代償が小さくなり金価格は上がりやすい。 利上げ観測が後退する局面で金が買われるのはこのためで、地政学リスクは短期的な上乗せ要因にすぎない。金の中期的な方向を読むときは、まず実質金利を見る。

③ 半導体の急騰には、需給の出尽くしという裏事情があった

半導体 (SMH) の週間 +7.80% は、金利低下だけで説明できる幅ではない。この週にはもう 1 つ、需給面の要因が重なっていた。

元 OpenAI 研究者が運営する AI 特化のヘッジファンドが、最大 400% とされるレバレッジを効かせた運用の巻き戻しに追い込まれ、7 月に運用資産を大きく減らしていた。同ファンドは AI インフラ関連をロング、ソフトウェアをショートする構成だったため、清算の過程で AI インフラ銘柄に強い売り圧力がかかっていた。その持ち高を Citadel が引き受けたことで、需給の重石が外れた。 週初の US 8/4 (火) には Intel +10%・AMD +8%・Broadcom +6% という日もあり、情報技術セクターは単日 +4.98% と独走している。

つまりこの週の半導体高は、「強制的な売りが終わった」という出尽くし要因と、「金利が下がった」というマクロ要因が同時に効いた結果である。前者は一度きりの需給イベントで、繰り返し効くものではない。週間 +7.80% をそのまま基調の強さと読むと過大評価になる点は注意しておきたい。

📚 用語: 強制清算 (Forced Liquidation) と出尽くし レバレッジをかけた運用者が損失や追証で持ち高の解消を迫られると、価格に関係なく売らざるを得ない。この売りは企業の実態とは無関係に価格を押し下げる。逆に言えば、清算が終わった瞬間に売り圧力は消え、価格が急反発しやすい。急騰の理由が「良いニュース」ではなく「悪い売りが終わったこと」である場合、その上昇の持続性は低い。 出来高を伴う急反発を見たときは、材料と需給のどちらが主因かを分けて考える。

④ エネルギーだけが取り残された

週間騰落率で見ると、11 セクター中 10 が上昇または横ばい圏で終わる中、エネルギー (XLE) だけが -3.44% と大きく下げた。原油の -7.67% がそのまま効いた形である。

この週の構造は「金利低下の恩恵を受ける長期成長株が買われ、原油価格に連動するエネルギーが売られる」という、きれいな金利主導の相場だった。半導体 +7.80% とエネルギー -3.44% の 11pt 超の格差は、同じ週に同じ市場で起きたとは思えないほどの開きである。

ただし後述するとおり、この構図は翌週の初日 (US 8/10) に完全に反転する。エネルギーがその日 +4.66% と急騰し、半導体は下げる。1 週間で最も強かったテーマが、翌営業日に最も弱くなるという振れ幅の大きさこそ、この時期の相場の特徴だった。


2. 週を通した内部構造 — 指数の裏側で起きていたこと

🎯 要点: 週足の全面高は、日々の連続した上昇ではなかった。 週の前半 (8/3–8/4) に大きく上げ、中盤 (8/5–8/6) に息切れし、雇用統計の 8/7 で再び上げるという 3 段構成で、中盤の 2 日間には明確な警戒サインが出ていた。

日次で追うと、この週は一本調子ではない。

日付S&P 500NASDAQDow特徴
US 8/3 (月)7,600.5025,913.9053,178.41週初から大幅高。前週の Amazon 決算の余韻
US 8/4 (火)7,736.5226,584.9954,085.88情報技術 +4.98% の独走。週内最大の上昇日
US 8/5 (水)7,723.5526,363.4454,349.12ダウのみ最高値。上げ幅の 79% が 3 銘柄
US 8/6 (木)7,709.9626,348.3553,885.10ダウ -0.85%。原油 +2.75% で反落
US 8/7 (金)7,757.6426,690.6254,036.93雇用統計を受けて NASDAQ +1.30%

中盤に 2 つの警戒サインが出ていた。

第一に、US 8/5 (水) のダウ最高値は中身が薄かった。上げ幅 263pt のうち 79% を Amgen・Goldman Sachs・Nvidia の 3 銘柄が作っており、値上がり銘柄数は NYSE で 1.2 対 1、NASDAQ で 1.37 対 1 と負け越していた。指数が最高値を更新した日に、市場全体では下げた銘柄のほうが多かったことになる。

第二に、US 8/6 (木) にダウが -0.85% と単独で大きく下げた。原油が +2.75% と反発したことでインフレ再燃への警戒が戻り、景気敏感な銘柄が重くなった日である。

つまりこの週の上昇は、前半の勢いと最終日の雇用統計という 2 つの山に支えられており、中盤は明確に息切れしていた。週足の +3.58% という数字だけを見ると滑らかな上昇に見えるが、日々の内部は不安定だった。

⚠️ 注記: 週次の騰落率は「週末終値 ÷ 前週末終値」で計算されるため、週の途中の高値・安値や、上昇の内訳 (何銘柄が牽引したか) は完全に消える。週足が強いことと、市場の幅が広いことは別の話である。 ブレッドス (値上がり銘柄数と値下がり銘柄数の比較) を併せて見る習慣がないと、指数だけを見て市場全体が強いと誤読する。


3. 今週の決算 — AI 投資は続いたが、株価の反応は割れた

この週は決算シーズンの終盤にあたり、AI 関連の設備投資をめぐる評価が銘柄ごとに大きく割れた。

SpaceX (SPCX) は US 8/4 (火) 引け後の決算で売上が前年比 +92% と伸びたにもかかわらず、翌 8/5 に -13.61% と急落した。原因は設備投資 $183.7 億という 1 行で、AI 部門の投資額は 1 年で 21 倍に膨らんでいた。詳細は個別記事にまとめている。

AMD も US 8/4 引け後に売上・利益・ガイダンスの三点で上振れながら、時間外で -8.8% と売られた。個別記事のとおり、市場は「上振れの幅が期待に届かなかった」ことを罰している。

Nvidia (NVDA) は US 8/5 に +3.43% と上昇した。他社が設備投資を増やすほど自社の受注が積み上がる立場にあり、同じ「設備投資の増加」というニュースが、投資する側には減点、受け取る側には加点として働いた構図である。

📚 用語: 設備投資 (CapEx) の二面性 設備投資は、投じる企業にとっては当期のキャッシュフローを圧迫するコストだが、その設備を売る企業にとっては売上そのものである。AI 関連では「投資する側 (クラウド事業者など)」と「受け取る側 (半導体・装置メーカー)」が明確に分かれており、同じニュースが両者で逆符号に効く。 決算の設備投資額を見るときは、それが誰の売上になるのかまでを一組で考える。


4. 今週の学び — 長期投資家として覚えておくべきこと

用語 / 概念

  1. 労働参加率 (Labor Force Participation Rate) — 失業率の分母を決める数字。失業率の低下が「就職が増えた」のか「職探しをやめた」のかを判別するために必ず併読する
  2. 実質金利 — 名目金利からインフレ率を引いたもの。金の中期的な方向を決める最大の要因で、地政学は上乗せ要因にすぎない
  3. 設備投資 (CapEx) の二面性 — 投じる企業には減点、受け取る企業には加点。AI 関連では同じニュースが逆符号で効く

パターン / 経験則

「悪いニュースが good news になる」局面の見分け方。 景気指標の悪化が株高につながるのは、市場が「金融政策の緩和方向への転換」を最優先の材料として扱っているときに限られる。この週の NFP -2.3 万人がまさにそれだった。ただしこの関係は永続しない。景気の悪化が「利上げが止まる」の範囲を超えて「企業収益が落ちる」に到達した瞬間、同じ悪材料が普通に株安として効き始める。 分岐点は失業率が明確な上昇トレンドに入るかどうかで、現時点の 4.1% はまだその手前にある。労働参加率の低下が続く場合、統計上の失業率は低いまま実態が悪化するため、雇用者数の絶対値のほうを主指標として追う必要がある。

監視指標の閾値表

指標現水準 (8/7)注意警戒意味
NFP (月次)-2.3 万人2 か月連続マイナス3 か月連続マイナス景気後退の確度
失業率4.1%4.4% 超4.6% 超「利上げ停止」から「収益悪化」への転換点
平均時給 (前年比)3.2%3.0% 割れ2.5% 割れ賃金インフレ経路の消滅
労働参加率61.4%61.0% 割れ60.5% 割れ失業率の統計的な信頼性低下
金 (先物)$4,340.7週次 +5% 超週次 +8% 超実質金利低下への強い賭け

5. 来週の山場 — CPI が全てを決める配置

🎯 要点: 来週は 7 月 消費者物価指数 (CPI) が単独最大の山場で、その 4 時間半後に 10 年債入札 $420 億が控える。 雇用が弱いことは既に判明したので、残る論点は「インフレが利上げを正当化するか」の 1 点に絞られた。

JST 日付イベント重要度
JST 8/11 (火) 19:00NFIB 中小企業楽観指数 (7 月)★★
JST 8/12 (水) 06:00CoreWeave (CRWV) 決算 (US 8/11 引け後)★★★★★
JST 8/12 (水) 21:307 月 消費者物価指数 (CPI)★★★★★
JST 8/13 (木) 02:0010 年債入札 $420 億★★★★
JST 8/13 (木) 05:30Cisco (CSCO) 決算 (US 8/12 引け後)★★★★
JST 8/13 (木) 21:307 月 生産者物価指数 (PPI)★★★★
JST 8/14 (金) 02:0030 年債入札 $250 億★★★
JST 8/14 (金) 05:30Applied Materials (AMAT) 決算 (US 8/13 引け後)★★★★★
JST 8/14 (金) 21:307 月 小売売上高 (Retail Sales)★★★★

構造的な注目点が 3 つある。

第一に、CPI と入札が同じ日の中に配置されている。7 月 CPI のコンセンサスは総合が前月比 +0.2%・前年比 2.8%、コアが +0.3%・3.0%。コアが +0.4% 以上に上振れれば 9 月利上げが再浮上し、その 4 時間半後に $420 億の長期債需要が試される。入札が不調なら金利上昇が二重に効く配置である。

第二に、決算が AI 投資サイクルを川下から川上へ順に検定する並びになっている。CoreWeave (8/11) が AI データセンターの需要、Cisco (8/12) がネットワーク層、Applied Materials (8/13) が製造装置層を担う。3 社が揃って強い場合にのみ「AI 投資は継続」が確認される構図で、どこか 1 層でも減速サインが出れば AI 関連全体の調整トリガーになりうる。

第三に、雇用が弱いことは既に確定した。したがって来週の CPI は「弱い雇用 + 落ち着いたインフレ」なら利上げ観測が完全に消えて株高、「弱い雇用 + 高いインフレ」なら景気減速下の物価高という最も厄介な組み合わせになる。後者が実現した場合、この週の上昇の前提が崩れる。

📚 季節性・アノマリー: 8 月は過去 50 年の S&P500 平均リターンが +0.2% と暦月で 3 番目に弱く、8 月と 9 月は 1945 年以降で最も弱い連続 2 か月を構成する。ただし勝率自体は 58% でプラスの年のほうが多く、平均を押し下げているのは下げる年の下げ幅の大きさである。つまり期待値ではなくテールリスクの月と理解するのが正しい。典型的には「月初は決算の余韻で堅調 → 中旬の CPI と薄商いでボラティリティ拡大 → 下旬のジャクソンホールで方向が決まる」という展開で、来週は中旬の拡大区間にあたる。ただしアノマリーは脇役であり、CPI という一次情報を差し置いて判断根拠にはしない。サンプル数も 50 程度しかなく、統計的に頑健とは言えない。


6. 今週のまとめ

項目内容
指数 (週次)S&P500 +3.58% / NASDAQ +5.19% / Dow +2.96% / Russell +3.52%
主役半導体 (SMH) +7.80% / 情報技術 (XLK) +7.20%。金利低下の最大受益者
最大の異常値金 +7.20% (週末 $4,340.7)。株と同時に上げたが理由は正反対
最大の下落原油 -7.67% ($78.18)。エネルギー (XLE) は -3.44% で唯一の大幅安
決定的な数字7 月 NFP -2.3 万人 (予想 +8 万人前後) + 5・6 月分の -10.3 万人下方改定。労働参加率 61.4%
政策の織り込み9 月 +25bp 利上げ確率 67% → 44.4%。据え置き確率は 45% → 60%
構造の変化「株と金が逆を読む」対立が、利上げ観測の後退という共通材料で同符号に解消した
警戒週足は滑らかでも中盤は息切れ。8/5 のダウ最高値は上げ幅の 79% が 3 銘柄由来
次の山場JST 8/12 (水) 21:30 の 7 月 CPI → 4 時間半後に 10 年債入札 $420 億

7. 関連記事


出典


免責: 本記事は情報提供のみを目的としており、投資勧誘や個別銘柄の売買推奨ではありません。投資判断はご自身の責任でお願いします。記載されたデータは執筆時点のものであり、正確性を保証するものではありません。

この記事を共有:でポストはてブ

この週のデイリー戦略ノート

本ウィークリーが束ねる平日のノート。各日の詳細はこちら。

免責: 本記事は情報提供のみを目的としています。投資勧誘や個別銘柄の売買推奨ではありません。 記載の数値は取得時点のもので、市場開閉や訂正により変動します。 最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。