MARKET INSIGHT · 決算スコアカード
拡大S&P500 決算スコアカード — Q1 EPS +27.7% は 2021 以来の最高益成長、だが上値は織り込み済み
FactSet 5/8 時点、S&P500 の Q1 2026 はブレンド EPS +27.7%・売上 +11.3% と 2021 Q4 以来の最高益成長。一方フォワード P/E 21.0 は 5/10 年平均を上回り、ビートが報われずミスが過剰に罰される非対称が、上値の織り込みを示唆する。複数ソースで確かめた決算サイクルの現在地。
Q1 EPS +27.7% は 2021 以来の最高益成長。だが P/E 21.0 (平均超) と「ビート報われず/ミス過剰に罰される」非対称が、拡大後期=上値織り込み済みを示唆。
集計スコアカード
FactSet 5/8 時点
ブレンド EPS 成長率
+27.7%
3月末 +13.1% → 現在 (推定の進化)
ブレンド売上成長率
+11.3%
2022 Q2 以来の最高
EPS ビート率
84%
5年平均 78% / 10年平均 76%
EPS サプライズ
+18.2%
5年平均 +7.3% の約 2.5 倍
フォワード 12M P/E
21.0
5年 19.9 / 10年 18.9 (平均超)
通年予想 EPS 成長率
+21.0%
Mag 7 +34.9% / 493社 +17.9% (5/21)
ビート/ミスの市場反応
ビート銘柄の反応
ビート銘柄 +1.1% (発表前後2日窓、5年平均 +1.0% とほぼ同じ — 好材料は報われていない)
ミス銘柄の反応
ミス銘柄 −4.9% (発表前後2日窓、5年平均 −2.9% の約 1.7 倍 — ミスは過剰に罰される)
バリュエーション (フォワード P/E)
複数ソースのクロスチェック。水準は 5/10 年平均との比較で見る。
| ソース | フォワード P/E | 5年平均 | 10年平均 | 補足 |
|---|---|---|---|---|
| FactSet | 21.0 | 19.9 | 18.9 | 5/8 時点 |
| Yardeni | 20.4 | — | — | 4月時点。FactSet とほぼ整合 (週次差の範囲) |
マクロ予想 (発表前コンセンサス)
FactSet Economics projection
注目ポイント
- Mag 7 +63.2% に対しその他 493 社も +17.4% と益成長の裾野が拡大 (2021 以来の高水準、5/21 記事)
- ヘルスケアが唯一の減益セクター、情報技術・通信サービスが二桁成長を牽引
- Q4 2025 純利益率 13.2% は過去 15 年超で最高 (4/27 テーマ記事)
0. ヘッドライン
FactSet 5/8 時点 (Q1 2026 決算の 89% が報告済み)、S&P500 はブレンド EPS +27.7%・売上 +11.3% と、いずれも数サイクルぶりの強さを記録しています。EPS 成長率は 2021 年 Q4 以来、売上成長率は 2022 年 Q2 以来の最高水準。表面的には「文句なしの好決算シーズン」です。
しかし、この記事で見ていくのは「好決算なのに、なぜ株価のディフェンスは弱いのか」という一段深い問いです。結論を先に置くと、レジームは「拡大 (expansion) — ただし拡大の後期」。業績の絶対値は強いものの、(1) フォワード P/E が 5 年・10 年平均を上回り、(2) ビートが報われずミスが過剰に罰される非対称が出ている——この 2 点が、上値の多くがすでに価格へ織り込まれていることを示しています。
当ノートは FactSet Insight を看板に、Yardeni Research など複数ソースを突き合わせ、編集部の解釈を主体に「いま S&P500 全体が決算サイクルとバリュエーションのどこにいるか」を読み解きます。以下、FactSet の定例 Earnings Insight の章立て (EPS → 売上 → 見通し → バリュエーション) を骨格に、過去サイクルとの比較と日本人投資家にとっての含意を加えていきます。
数値スコアカード・バリュエーション・市場反応は ページ上部にカード表示しています。本文では数字を繰り返さず、その読み筋に集中します。
1. 益成長のフェーズ — EPS → 売上 → 見通し
「推定の進化」が語るもの
まず注目すべきは、数字そのものより「推定の進化」です。Q1 のブレンド EPS 成長率は、四半期入り口の 3 月末時点では +13.1% の予想にすぎませんでした。それが決算の積み上がりとともに +27.7% (5/8) まで切り上がっています。差分の +14.6 ポイントは、ほぼすべて「実績がアナリスト予想を上回り続けた」結果です。
この「シーズンを通じて上方に膨らむ」パターンは、健全な拡大局面の典型です。逆に、景気減速の入り口では、決算が出るたびに見通しが下方に削られ、シーズン序盤の楽観が終盤にかけてしぼみます。今回はその逆——序盤の保守的な予想を実績が次々と超えていった。アナリストが企業の地力を過小評価していた、ということでもあります。
ただし、この強さには注意も要ります。+27.7% という数字は前年同期 (2025 年 Q1) の業績が相対的に低かったことの裏返し (ベース効果) も含みます。成長率の「水準」だけでなく「方向」と「持続性」を見るために、後述する通年見通しとセットで読む必要があります。
Mag 7 一極集中から「裾野の拡大」へ
もう一つ重要なのは、この益成長が一部の巨大テックだけの現象ではない点です。FactSet の 5/21 集計によれば、Mag 7 (Magnificent 7) の EPS 成長率 +63.2% に対し、残りの 493 社も +17.4% と 2021 年以来の高成長を記録しています。
2023〜2024 年の上昇相場は「Mag 7 が指数を引っ張り、その他大勢は横ばい」という極端な二極化が特徴でした。指数 (時価総額加重) は上がっても、等加重で見ると market はさほど強くない——という「見かけ倍の強さ」です。今回の数字は、その構図に変化の兆しがあることを示します。493 社の二桁成長は、業績の裾野が広がりつつあるサインで、相場の持続性という観点ではポジティブです。両グループとも通年 2026 予想が 3 月末比で上方改定されており、改定モメンタムも揃っています。
売上 +11.3% と利益率の関係
売上成長率 +11.3% は 2022 年 Q2 以来の最高ですが、EPS の +27.7% とは大きな開きがあります。売上の伸び以上に利益が伸びている——つまり利益率の改善が効いている構図です。実際、後述するように Q4 2025 の純利益率は過去 15 年超で最高を記録しました。コスト規律と価格決定力、そして AI 関連の生産性が、トップライン以上にボトムラインを押し上げている可能性があります。
📚 用語: ブレンド成長率 (Blended Growth Rate) とは 既に決算を報告した企業の「実績」と、未報告企業の「アナリスト予想」を混ぜて算出した S&P500 全体の成長率です。シーズンが進むほど実績の比率が上がるため数字が動きます (例: 3 月末 +13.1% → 5/8 +27.7%)。「いま全体がどこにいるか」を 1 つの数字で追える反面、シーズン序盤は予想の比率が高く振れやすいので、確報に近づくほど信頼度が増す、という性質を踏まえて読みます。
2. ビート/ミスの市場反応 — 構造変化のサイン
「報われないビート、罰されるミス」の非対称
当ノートが最も重視する「構造変化のサイン」がここに出ています。FactSet (5/11) によれば、Q1 にポジティブ EPS サプライズを出した銘柄の平均株価反応 (発表前 2 日〜後 2 日の 4 日窓) は +1.1% で、5 年平均 (+1.0%) とほぼ同じ。一方、ネガティブ サプライズ銘柄は −4.9% と、5 年平均 (−2.9%) の約 1.7 倍も売られています。
つまり「ビートしても平年並みにしか報われず、ミスすると平年以上に罰される」という非対称です。ビート率 84%・サプライズ +18.2% という記録的な好決算にもかかわらず、です。
なぜこれが「最速のレジーム転換シグナル」なのか
この非対称は、市場心理の構造を映します。強い業績がすでに株価に織り込まれているとき、実際にビートしても「想定どおり」で材料出尽くしとなり、上値は限定されます。逆にミスは「織り込んでいた前提が崩れた」ショックとして、高い PER のぶんだけ大きな下方修正圧力を生みます。
重要なのは、この反応の非対称は業績の数字より早く現れる点です。EPS 成長率そのものはまだ +27.7% と絶頂ですが、市場の「報われ方」はすでに冷めている。株価は業績の絶対値ではなく「期待との差分」で動くため、期待が極まった局面では、好決算が続いていても株価のディフェンスは脆くなります。この「業績は強いのに反応は鈍い」状態は、上昇相場の終盤でしばしば観測されるパターンです。
過去を振り返ると、2021 年後半の過熱期にも似た「好決算が祝福されない」局面がありました。当時はその後、2022 年の金利急騰局面で高 PER 銘柄が大きく調整しています。今回が同じ道をたどると決めつけるのは早計ですが、「ビートが報われない」は警戒に値するシグナルとして、次回以降の更新で継続的に追う価値があります。
3. バリュエーション — 複数ソースで確かめる
FactSet と Yardeni の突き合わせ
フォワード 12 ヶ月 P/E は FactSet で 21.0 (5/8)。5 年平均 19.9・10 年平均 18.9 を上回り、「適正〜やや過熱」の水準です。ここで重要なのは、単一ソースの数字を鵜呑みにしないこと。別系統のデータ提供者である Yardeni Research でも 4 月時点で約 20.4 と、週次差・基準日差の範囲で整合しています。
複数ソースが同じ方向 (平均超) を指しているという事実は、「特定のデータ提供者の算出方法の癖」ではなく、市場全体が実際に平均より高い倍率を払っている、という実像を裏付けます。当ノートが FactSet 単独ではなく複数ソースで確かめるのは、こうした「数字の頑健性」を担保するためです。
「割高」か「正当化されうる」か
水準だけ見れば 21.0 は割高です。しかし、バリュエーションは成長率と必ずセットで評価する必要があります。通年 +21.0% という益成長と組み合わせれば、いわゆる PEG (PER ÷ 成長率) 的にはむしろ正当化されうる水準とも言えます。問題は、それが「成長が続く限りの適正」だという点です。
ここで効いてくるのが金利です。フォワード P/E の「適正水準」は長期金利と裏表の関係にあります。金利が高止まりするほど、将来利益の現在価値は割り引かれ、許容される PER は下がります。逆に利下げ観測が強まれば PER は拡張余地を持ちます。したがって 21.0 という数字は、「今の金利環境と +21% の益成長が続く」という二つの前提に乗った数字であり、どちらかが崩れれば脆い。参考までに、フォワード P/E は 2025 年 9 月には 22.5 程度まで切り上がった局面もあり、現在はそこからやや圧縮しつつ平均超を維持している、という位置づけです。
📚 用語: フォワード P/E とは 株価 ÷ 向こう 12 ヶ月の予想 EPS です。水準単独では割高か判断できず、必ず自身の 5 年/10 年平均と比較して相対評価します (今回 21.0 vs 5 年 19.9・10 年 18.9 = 平均超)。さらに長期金利と益成長率の二つを背景変数として読むことで、「なぜこの倍率が許容されているのか」「何が崩れると下がるのか」まで踏み込めます。複数ソースで照合すると、算出方法の差を除いた実像が見えます。
4. セクター / 記録性 — 利益率は 15 年で最高
純利益率が映す「質の高い拡大」
FactSet の別記事 (4/27) によれば、Q4 2025 のブレンド純利益率 13.2% は過去 15 年超で最高でした。売上サプライズ自体は平年並み (+1.7%) だったことを踏まえると、今回の益成長は「売上が爆発的に伸びた」のではなく「同じ売上からより多くの利益を絞り出している」性質のものだと分かります。
これは見方が分かれるポイントです。強気に解釈すれば、AI 導入による生産性向上やコスト規律が定着し、構造的に高い利益率が新常態になった、ということ。慎重に見れば、利益率は循環的なもので、いずれ平均回帰する——つまり「最高水準」は「これ以上の改善余地が乏しい」天井のサインとも読めます。利益率主導の成長は、売上主導の成長より持続性の見極めが難しい、と心に留めておくべきです。
セクターの偏り
セクター別では、情報技術とコミュニケーション・サービスが二桁の EPS 成長で全体を牽引する一方、ヘルスケアが唯一の減益セクターとなりました。指数全体の +27.7% という数字の裏で、勝ち負けははっきり分かれています。
ヘルスケアの不振は、薬価をめぐる政策圧力や一部大型薬の特許切れ、コロナ特需の剥落といった構造要因が背景にあると考えられます。「指数は最高益でもセクター内部は二極化している」——この内部分散こそ、指数の数字だけ見ていては気づけない部分であり、セクター配分を考える長期投資家が押さえておくべき点です。
5. マクロ予想 — 次の谷間に向けて
決算シーズンが終盤に入ると、市場の関心は個別業績からマクロへ移ります。FactSet Economics は CPI (4 月) を前年比 +3.7% と予想しています (JST 5/13 (火) 21:30 発表)。インフレが市場予想どおりに鈍化するか、それとも上振れるかは、前述したフォワード P/E の「許容水準」を左右する金利観に直結します。
ここで当ノートの役割分担を明確にしておくと、FactSet Economics が提供するのは「発表前の市場予想 (projection)」であり、当ノートの経済指標レポート (/indicators) が扱うのは「発表後の実績分析」です。両者は補完関係にあり、「事前にどこを見るか」を本記事で、「実際にどうだったか」を指標レポートで、と読み分けると、マクロイベントの理解が立体的になります。
6. 長期投資家への含意
日本人投資家としての時間軸と通貨
実務的な注意を二つ。一つは時間軸です。FactSet の定例 Earnings Insight は US 金曜に更新されるため、日本では土曜の午前に最新版を確認でき、日曜に週末の頭の整理に使えます。「金曜引け後の喧騒が落ち着いた週末に、集計データで全体像を俯瞰する」——このリズムが日本在住の投資家には合っています。
もう一つは通貨です。本記事の P/E や成長率はすべてドル建て・現地通貨ベースの数字です。日本から S&P500 (や投信・ETF) に投資する場合、円建てのリターンにはここに為替が乗ります。「業績は拡大後期、バリュエーションは平均超」という現地の評価に加えて、円安・円高の局面判断を別途重ねる必要がある、という点は押さえておきたいところです。
では、どう行動に落とすか
レジームは「拡大の後期 — 業績は強いが株価の安全余裕は薄い」。これを具体的な構えに翻訳すると——新規の積極的な買い増しには慎重さが要る局面である一方、業績そのものが崩れたわけではないので、長期保有の取り崩しを急ぐ局面でもありません。むしろ注目したいのは、「ミスが過剰に罰される」非対称を逆手に取る視点です。好業績銘柄が小幅なミスで 5 年平均の 1.7 倍も売られているなら、その中にはファンダメンタルズに対して過剰反応している銘柄が混じっている可能性があります (これは個別銘柄の決算レポート側で精査するテーマです)。
次回の更新で確認すべき 3 点
- ビート/ミスの市場反応の非対称が続くか — ネガティブ反応 −4.9% が縮小に向かえば過熱の解消、さらに悪化すればレジーム転換の前兆。最速のシグナルとして毎回追う。
- その他 493 社の通年予想 (+17.9%) の改定方向 — 上方改定が続けば「裾野の拡大」は本物、下方なら Mag 7 依存への逆戻り。
- フォワード P/E が 21 を超えて拡張するか / 縮小するか — 益成長に P/E 拡張が乗ると過熱、横ばいで益成長主導なら健全な上昇。CPI と金利観を併せて見る。
📚 用語: アーニングス・サプライズと市場反応の非対称 実績 EPS が予想をどれだけ上回ったか (今回 +18.2%) を指します。重要なのは「サプライズの大きさ」と「株価がどう反応したか」を必ずセットで見ること。ビートが報われずミスが過剰に罰される非対称は、好材料が織り込み済みのサイン。サプライズの数字が大きくても、それが株価に効かなくなったら、相場の局面が変わりつつあると疑うべきです。
7. 出典・データの扱い
本記事は FactSet Insight の複数記事 (5/8 の決算 Update、5/11 の市場反応、5/21 の Mag 7 分解、4/27 の純利益率) と Yardeni Research を照合し、編集部の解釈・歴史的文脈・日本人投資家視点を加えた独自分析です。集計値そのものは各社の一次集計に依拠しており、元レポートへは下部の出典リンクからアクセスしてください。
⚠️ 本記事は FactSet Insight 等の公開データを複数ソースで照合し、編集部の解釈を加えた独自分析です。各社の元レポートへは出典リンクからアクセスしてください。
出典・データソース
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