MARKET INSIGHT · Mag 7 vs その他 493 社
拡大Mag 7 と裾野の 493 社がそろって 2021 以来の最高益成長 — 幅の広がった Q1、だが市場は「完璧」を要求
FactSet 5/21 時点、Mag 7 の Q1 EPS 成長率 +63.2% だけでなく、これまで停滞していた残り 493 社も +17.4% と、ともに 2021 年以来の最高成長。一極集中から「幅の広がった拡大」への転機。一方フォワード P/E 21.1 と、ミスが過剰に罰される非対称が、株価が好決算をすでに織り込んだ『完璧の要求』局面を示す。
Mag 7 (+63.2%) も裾野の 493 社 (+17.4%) も 2021 年以来の最高成長 — 上昇の幅が広がった Q1。だが P/E は平均超で「完璧」を要求。
集計スコアカード
FactSet 5/21 時点
Mag 7 EPS 成長率
+63.2%
2021年Q2 (+89.2%) 以来の最高 / ビート率 7社中7社=100%
その他 493 社 EPS 成長率
+17.4%
2021年Q4 (+32.3%) 以来の最高 — 裾野まで拡大
ブレンド EPS 成長率 (全体)
+28.4%
3月末 +13.0% → 現在 / 2021年Q4以来の最高 (5/21確定)
ブレンド売上成長率 (全体)
+11.6%
2022年Q2 以来の最高 (5/21確定)
フォワード 12M P/E
21.1
5年 19.9 / 10年 18.9 / 3月末 19.7 (5/21)
ボトムアップ目標株価
8,633 (+16.1%)
終値 7,433 から / CY2026 EPS +22.1% 予想
ビート/ミスの市場反応
ビート銘柄の反応
ビート銘柄 +1.1% (発表前後2日窓、5年平均 +1.0%・5/11時点) — 記録的な好決算でも報われ方は平年並み
ミス銘柄の反応
ミス銘柄 −4.9% (発表前後2日窓、5年平均 −2.9% の約 1.7 倍・5/11時点) — ミスへの懲罰が平年比で過剰
バリュエーション (フォワード P/E)
複数ソースのクロスチェック。水準は 5/10 年平均との比較で見る。
| ソース | フォワード P/E | 5年平均 | 10年平均 | 補足 |
|---|---|---|---|---|
| FactSet | 21.1 | 19.9 | 18.9 | 5/21 PDF 本体。3月末 19.7 → 上昇。トレーリング P/E 28.0 |
| MacroMicro | 22.8 | — | — | 5/28 時点・別ソース検証 (12M 先物 EPS ベース、定義差で高め) |
注目ポイント
- Mag 7 のビート率は 7 社中 7 社の 100%、サプライズ幅 +32.5% は S&P500 全体 (+16.6%) の約 2 倍。寄与トップ5 のうち 4 社を Mag 7 が占める (NVIDIA・Alphabet・Amazon・Meta、5/21)
- 通年 2026 予想を両グループとも上方改定: Mag 7 +24.3%→+34.9%、493 社 +14.7%→+17.9% (全体 CY2026 EPS +22.1%・5/21)
- ボトムアップ目標株価 8,633 (+16.1% upside)。セクター別では減益のヘルスケア (+21.5%)・素材 (+21.2%) が先高観最大、生活必需品 (+8.3%) が最小 (5/21 PDF)
- アナリスト レーティングは Buy 59.3% / Hold 35.7% / Sell 5.0%、Buy 比率は IT 69% が最高・生活必需品 43% が最低 (5/21 PDF)
- 3月末から指数は +13.9% 上昇、フォワード EPS は +6.2% — 株価上昇の半分以上がマルチプル拡大 (5/21 PDF)
- S&P500 の純利益率は過去 15 年超で最高水準、IT が牽引 (5年平均 25.3% に対し 29.1%、4/27)
0. ヘッドライン
FactSet 5/21 時点、Q1 2026 の決算シーズンはほぼ完了し、その総括として一つの大きなテーマが浮かび上がりました——「上昇の幅が広がった」ことです。
これまで数年、米国株の上昇は Mag 7 (Magnificent 7) に極端に偏っていました。指数は最高値を更新しても、その中身は一握りの巨大テックが牽引し、残り大多数の銘柄は停滞——という「見かけ倍の強さ」が続いてきた。ところが Q1 は、Mag 7 が EPS +63.2% と相変わらず圧巻なだけでなく、これまで停滞していた残り 493 社も +17.4% と、双方が 2021 年以来の最高成長を記録しました。利益成長が一部から全体へと裾野を広げた、という点でこの四半期は転機の可能性を持ちます。
ただし、業績が記録的に強い一方で、株価の反応は冷めています。フォワード P/E は 5 年・10 年平均をともに上回り、ミスした銘柄は平年の 1.7 倍も売られる——つまり好決算は株価にすでに織り込まれ、市場は「完璧」を要求している。本記事では、この「幅の広がった拡大」と「価格の先行」という二つの顔を、FactSet を看板に複数ソースを突き合わせながら読み解きます。
数値スコアカード・バリュエーション・市場反応は ページ上部にカード表示しています。本文では数字を繰り返さず、その読み筋に集中します。
1. 主役 — Mag 7 と裾野 493 社の「同時加速」
一極集中から幅の広がりへ
今シーズンの最大の論点は、Mag 7 の強さそのものではなく、その他 493 社の復調にあります。FactSet の 5/21 集計によれば、Mag 7 の Q1 ブレンド EPS 成長率は +63.2% で、これは 2021 年 Q2 (+89.2%) 以来の高水準。一方で残りの 493 社も +17.4% と、こちらも 2021 年 Q4 (+32.3%) 以来の最高成長です。
なぜこれが重要か。2023〜2024 年の上昇相場は「Mag 7 が指数を引っ張り、その他大勢は横ばい」という極端な二極化が特徴でした。時価総額加重の指数 (S&P500) は上がっても、等加重で見ると market はさほど強くない——いわゆるブレッドス (市場の幅) の欠如です。幅の狭い上昇は脆い。牽引役が一部に集中しているほど、その数銘柄が躓いたときの下落リスクが大きいからです。
Q1 で 493 社が二桁成長に乗ってきたことは、この構図に変化の兆しを与えます。「Mag 7 頼みの偏った相場」という長年の批判に対し、利益成長の源泉が広がりつつある、という前向きな材料です。両グループとも通年 2026 予想が 3 月末比で上方改定 (Mag 7 +24.3%→+34.9%、493 社 +14.7%→+17.9%) されており、アナリストが市場全体の年間 EPS を引き上げている点も、この広がりが一過性でない可能性を示します。
Mag 7 の「質」— ビート率 100%
とはいえ、Mag 7 の存在感が薄れたわけではありません。むしろ質の面では圧倒的です。Mag 7 のビート率は 7 社中 7 社の 100%、集計サプライズ幅は +32.5% と S&P500 全体 (+16.6%) の約 2 倍。さらに、指数全体の earnings 成長への寄与トップ 5 のうち 4 社 (NVIDIA・Alphabet・Amazon・Meta) を Mag 7 が占めました。
つまり構図は「Mag 7 が依然として最大のエンジンでありつつ、裾野もようやく回り始めた」。Mag 7 が失速したのではなく、他が追いついてきた——この読み方が正確です。投資家として注視すべきは、493 社のこの復調が Q2 以降も続くか。それが続けば「幅の広い強気相場」、息切れすれば「再び Mag 7 一極依存」に逆戻りします。
📚 用語: ブレッドス (市場の幅) とは 上昇 (または業績拡大) が、一部の銘柄に偏っているか、幅広い銘柄に広がっているかを示す概念です。少数の巨大株だけが牽引する「幅の狭い」相場は、その数銘柄の変調で大きく崩れやすく脆い。逆に多くの銘柄が揃って伸びる「幅の広い」局面は持続性が高いとされます。Mag 7 と 493 社の成長率を分けて見るのは、まさにこのブレッドスを測るためです。
2. 全体スコアカード — 「推定の進化」が示す地力
個別グループだけでなく、S&P500 全体のブレンド EPS 成長率も +28.4% (5/21 確定) と、2021 年 Q4 以来の最高です。ここでも注目は「推定の進化」。3 月末時点では +13.0% の予想にすぎなかったものが、決算の積み上がりとともに +28.4% へと倍増しました。
通常、決算シーズンでは実績が予想を「わずかに上回る」のが常態です。ところが今回は、EPS サプライズ幅が 5 年平均 (+7.3%) の約 2.5 倍に達しました。これは、シーズン序盤にアナリストが企業の地力を大きく過小評価していたことを意味します。売上成長率も +11.6% (5/21 確定) と 2022 年 Q2 以来の最高で、トップラインからボトムラインまで揃って強い四半期だったと言えます。
3. ビート/ミスの市場反応 — 「完璧の要求」
報われないビート、罰されるミス
これだけの好決算にもかかわらず、当ノートが最も重視する「報われ方」は冷めています。FactSet (5/11 時点) によれば、ポジティブ EPS サプライズ銘柄の平均株価反応 (発表前 2 日〜後 2 日の 4 日窓) は +1.1% で、5 年平均 (+1.0%) とほぼ同じ。一方、ネガティブ サプライズ銘柄は −4.9% と、5 年平均 (−2.9%) の約 1.7 倍も売られました。
「先行き悪化」ではない、という重要な但し書き
ここで FactSet 自身が付す但し書きが示唆的です。ミス銘柄への過剰な下げは、「先行きの業績悪化」が理由ではない、と。実際、Q2 の EPS 予想改定はプラス方向で、ネガティブな企業ガイダンスの発行件数も歴史的平均を下回っています。つまり企業の見通しはむしろ良好。にもかかわらずミスが厳しく罰されるのは、好決算が大前提として株価に埋め込まれており、少しでも外すと容赦なく売られるという、サイクル後半に典型的な「完璧の要求 (priced for perfection)」の状態にあるからです。
業績の絶対値はまだ絶頂 (+27.7%) ですが、市場の「報われ方」はすでに冷めている。株価は業績そのものではなく「期待との差分」で動くため、期待が極まった局面では、好決算が続いても株価のディフェンスは脆くなります。これが今シーズンの最大の構造変化サインです。
📚 用語: priced for perfection (完璧の織り込み) とは 株価が、企業が完璧な業績を出し続けることを前提に買われている状態を指します。期待が極限まで高まっているため、実際に好決算を出しても「想定どおり」で材料出尽くしとなり上値が重い一方、わずかなミスでも前提が崩れたショックとして大きく売られます。ビートが報われずミスが過剰に罰される非対称は、この状態の典型的な兆候です。
4. バリュエーション — 複数ソースで確かめる
フォワード 12 ヶ月 P/E は FactSet で 21.1 (5/21 確定)。5 年平均 19.9・10 年平均 18.9 をいずれも上回り、3 月末の 19.7 からも切り上がって割高ゾーンにあります。別系統の MacroMicro では 5/28 時点で 22.78 とさらに高いものの、これは分母の予想 EPS の定義差 (12 ヶ月先物 EPS ベース) によるもので、「平均を上回っている」という方向性は複数ソースで一致しています。単一ソースの癖ではなく、市場全体が実際に平均より高い倍率を払っている、という実像です。トレーリング (実績) ベースの P/E も 28.0 と、5 年平均 24.6・10 年平均 23.3 を大きく上回ります。
ここで見逃せないのが、PDF 本体が明かす上昇の「中身」です。3 月末からの約 2 ヶ月で指数は +13.9% 上昇しましたが、その間にフォワード EPS 予想が増えたのは +6.2% にすぎません。つまり株価上昇の半分以上は、業績の改善ではなく PER (マルチプル) の拡大によるもの。好決算が続く裏で、投資家が払う倍率そのものが膨らんでいる——これは割高化が進行しているサインです。
ボトムアップ目標株価は 8,633.15 で、5/21 の終値 7,432.97 から +16.1% の上昇余地。アナリストは依然強気ですが、P/E が平均を上回る局面では、この上昇余地の大半は「これ以上のマルチプル拡大」ではなく「EPS 成長の実現」に依存します。言い換えれば、ここからのリターンは業績が予想どおり伸びることが前提であり、PER がさらに切り上がる余地は乏しい。記録的な純利益率 (後述) も「これ以上のマージン改善が頭打ちになれば、成長は売上次第」という論点を浮かび上がらせます。
📚 用語: ボトムアップ目標株価 (Bottom-Up Target Price) とは 構成銘柄ごとにアナリストが設定した個別目標株価を、指数全体で積み上げて算出した目標値です。現値比 +16% は向こう 12 ヶ月の上昇余地を示しますが、P/E が割高な局面では「目標株価の上昇 = 主に予想 EPS の前倒し」であり、株価が割安なときの目標株価とは意味合いが異なる点に注意します。
5. セクター / 利益率 — テック依存と記録的マージン
売上はテック一極、利益率は 15 年超で最高
セクター別に分解すると、テクノロジー依存の高さが改めて浮かびます。売上成長率は IT が +29.2% (うち半導体は +52%) と突出し、IT を除くと S&P500 全体の売上成長は +11.4% から +9.0% に低下します。指数全体の強さの相当部分が、AI 関連の半導体・クラウド需要に支えられている構図です。
利益率も記録的です。FactSet によれば S&P500 の純利益率は過去 15 年超で最高水準で、IT セクターが 5 年平均 25.3% に対し 29.1% と牽引しています。売上の伸び以上に利益が伸びているのは、AI 導入による生産性向上とコスト規律が効いているため。ただし「最高水準のマージン」は、強気に見れば構造的な新常態、慎重に見ればこれ以上の改善余地が乏しい天井のサインとも読めます。利益率主導の成長は、売上主導より持続性の見極めが難しい点に注意が要ります。
バリュエーションとレーティングの偏り
セクター別のフォワード P/E を見ると、一般消費財 (Consumer Discretionary) が 26.9 と最も高く、エネルギー (14.4) と金融 (14.6) が最も低い。グロース期待の高いセクターに資金が集まり、景気敏感・割安セクターは低い倍率に据え置かれる、という典型的な構図です。アナリストのレーティングも、S&P500 全体 12,777 件のうち Buy 59.3%・Hold 35.7%・Sell 5.0% と強気優勢で、Buy 比率は IT (69%)・コミュニケーション サービス (65%) が高く、生活必需品 (43%)・公益 (49%) が低い。
ヘルスケアの逆説 — 「減益だが先高観は最大」
最も興味深いのがヘルスケアです。前述のとおり Q1 は唯一の前年割れ (減益) セクターでしたが、ボトムアップ目標株価の上昇余地はセクター中で最大 (+21.5%、素材が +21.2% で続く)。足元の業績が最も悪いセクターに、アナリストが最も大きな先高観を置いている、という逆説です。
これは、薬価政策の圧力・大型薬の特許切れ・コロナ特需の剥落といった逆風がすでに株価に織り込まれ、バリュエーションが切り下がった結果、「悪材料出尽くしからの反発」を見込む向きが強いことを示唆します。逆に、上昇余地が最小なのは生活必需品 (+8.3%)——ディフェンシブで安定的だが、伸びしろも乏しいという評価です。指数全体が最高益でも、セクター内部の勝ち負けと先高観は鮮明に分かれており、この内部分散こそ指数の数字だけでは見えない部分です。
6. 長期投資家への含意
日本人投資家としての視点
実務的な注意を二つ。時間軸として、FactSet の集計は US 金曜更新のため、日本では土曜午前に最新版を確認できます。5/21 のような週半ばのテーマ記事 (Mag 7 分解) も、週末にまとめて咀嚼するのに適しています。通貨の面では、本記事の P/E・成長率はすべてドル建てです。日本から S&P500 (投信・ETF) に投資する場合、円建てリターンにはここに為替が乗るため、「現地の評価 = 拡大後期・平均超」に加えて円高・円安の局面判断を別途重ねる必要があります。
では、どう構えるか
レジームは「幅の広がった拡大、ただし価格が先行」。利益成長は記録的でブレッドスも改善している一方、株価がそれを十分織り込み、ミスへの懲罰が過剰になっている。サイクルの中盤後半に位置すると読むのが妥当で、ここからのリターンは「マルチプル拡大」より「EPS 成長の実現」に依存します。新規の積極的な買い増しには慎重さが要る一方、業績そのものは崩れていないため、長期保有を急いで手放す局面でもありません。むしろ「ミスが過剰に罰される」非対称は、ファンダメンタルズに対して売られすぎた優良銘柄を拾う好機を生む可能性があり、これは個別銘柄の決算レポート側で精査すべきテーマです。
次回の更新で確認すべき 3 点
- 裾野 493 社の成長持続性 — +17.4% が Q2 以降も続けば「幅の広い拡大」は本物、息切れすれば再び Mag 7 一極依存への逆戻り。ブレッドスの本物度を測る最重要点。
- 純利益率のピークアウト有無 — 過去 15 年超で最高の水準から、さらなる改善予想 (Q2 ~14%) が現実化するか、頭打ちか。利益率主導の成長の限界を見極める。
- ミスへの過剰反応の継続 — −4.9% (5 年平均の 1.7 倍) が和らげば過熱の解消、残れば「完璧の要求」が続いているサイン。最速のレジーム転換シグナルとして毎回追う。
7. 出典・データの扱い
本記事は FactSet Insight の複数記事 (5/21 の Mag 7 分解、5/15 の売上、5/11 の市場反応、5/8 の決算 Update、4/27 の純利益率) と MacroMicro を照合し、編集部の解釈・歴史的文脈・日本人投資家視点を加えた独自分析です。各数値の基準日は本文・スコアカードに併記しています (5/21 PDF 本体のセクター別目標株価は取得できず、本記事では扱っていません)。集計値そのものは各社の一次集計に依拠しており、元レポートへは下部の出典リンクからアクセスしてください。
⚠️ 本記事は FactSet Insight 等の公開データを複数ソースで照合し、編集部の解釈を加えた独自分析です。各社の元レポートへは出典リンクからアクセスしてください。