Daily Stock Strategy米国株 デイリー戦略ノート

MARKET INSIGHT · EPS 改定

拡大
Q2 2026FactSet 5/29 時点2026年5月30日(土)14

S&P500 EPS 改定 — Q2 予想が四半期途中で +2.5% 上方修正 (2021 以来最大)、だが牽引は原油高の Energy という偏り

FactSet 5/29 時点、アナリストが Q2 2026 の S&P500 ボトムアップ EPS を 3 月末から +2.5% ($78.84→$80.80) 引き上げた。四半期の最初の 2 ヶ月でアナリストは通常 EPS を下方修正する (過去 5/10/15/20 年平均は -1.6〜-3.2%) ため、これは 2021 Q3 以来最大の異例の上方修正。記録的な Q1 決算 (EPS +27.7%) を裏付ける地力の証だが、改定を主導したのは Energy (+59.2%) で原油・ガス高への依存度が高く、Health Care は -15.2% と逆。今週の原油急落 (Brent 5 月 -19%) を踏まえると、上方修正のドライバーには剥落リスクがある。フォワード P/E 21.0 の割高を正当化するには『広く持続的な』改定が要る局面。

Q2 2026 EPS が四半期途中で +2.5% 上方修正 (平年は -1.6〜-3.2% の下方修正 / 2021 Q3 以来最大)。だが牽引は Energy +59.2% で原油高依存、今週の原油急落で剥落リスク。

集計スコアカード

FactSet 5/29 時点

Q2 2026 EPS 改定 (3/31→5/28)

+2.5%

$78.84 → $80.80。四半期途中の上方修正は 2021 Q3 (+3.8%) 以来最大

平年の同期間改定

-1.6〜-3.2%

5年 -1.6% / 10年 -2.2% / 15年 -2.6% / 20年 -3.2% (通常は下方修正)

通年 2026 EPS 改定

+5.3%

$320.34 → $337.47 (3/31→5/28)。通年予想も上方修正

改定を主導 / 足を引く

Energy +59.2%

Health Care -15.2% が最大の下方修正。改定はセクター偏在

Q2 2026 予想成長率

+19.9%

Q3 +23.2% / Q4 +20.7% / 通年 +21.0% (FactSet 5/8)

フォワード 12M P/E

21.0

5年 19.9 / 10年 18.9 を上回る (5/8 時点・割高)

ビート/ミスの市場反応

ビート銘柄の反応

ビート銘柄 +1.1% (発表前後2日窓、5年平均 +1.0%・5/11時点) — 上方改定でも報われ方は平年並み

ミス銘柄の反応

ミス銘柄 −4.9% (発表前後2日窓、5年平均 −2.9% の約 1.7 倍・5/11時点) — ミスは過剰に罰される

バリュエーション (フォワード P/E)

複数ソースのクロスチェック。水準は 5/10 年平均との比較で見る。

ソースフォワード P/E5年平均10年平均補足
FactSet21.019.918.95/8 Update。通年 EPS 改定後も最新確定値はこの水準
Yardeni20.95/10 時点・別ソース検証 (forward EPS $354 ベース)

注目ポイント

  • Q2 改定 +2.5% は平年と真逆: 四半期最初の 2 ヶ月でアナリストは通常 EPS を下方修正する (5年 -1.6% / 10年 -2.2% / 15年 -2.6% / 20年 -3.2%)
  • 改定を主導したのは Energy (+59.2%)、原油・ガス高を反映。逆に Health Care は -15.2% と最大の下方修正で改定はセクター偏在
  • 通年 2026 ボトムアップ EPS も $320.34 → $337.47 (+5.3%) と上方修正、ボトムアップ目標株価は 8,633 (5/21・終値比 +16.1%)
  • 別系統の LSEG (Refinitiv) I/B/E/S でも Q1 EPS +27.8% / 売上 +10.5% と FactSet (+27.7% / +11.4%) にほぼ一致、高成長像は単一ソースの偏りではない

0. ヘッドライン

FactSet 5/29 時点、Q1 2026 の決算シーズンがほぼ終わった裏で、アナリストの行動に一つの異例が起きていました——Q2 2026 の予想 EPS を、四半期の途中で引き上げていることです。

通常、四半期が始まってからの最初の 2 ヶ月、アナリストは予想 EPS を下方修正します。過去 5 年で平均 -1.6%、10 年で -2.2%、15 年で -2.6%、20 年で -3.2% と、期間を遡るほど下げ幅は大きくなる。これが「常態」です。ところが今回、Q2 2026 のボトムアップ EPS は 3 月末から 5/28 までで +2.5% (= $78.84 → $80.80) 上昇しました。四半期の最初の 2 ヶ月での上方修正としては 2021 年 Q3 (+3.8%) 以来最大。「アナリストが将来の利益見通しに自信を強めている」という、地力の強さを示すサインです。

ただし、その中身を一段掘ると話は単純ではありません。改定を牽引したのは Energy (エネルギー、+59.2%) で、原油・ガス価格の上昇に依存した上方修正です。一方 Health Care (ヘルスケア) は -15.2% と最大の下方修正。しかも今週 (US 5/26-29) は Iran 停戦観測で原油が急落 (Brent は 5 月 -19% = コロナ禍以来最悪の月) しており、上方修正のドライバーは早くも揺らいでいます。本記事では「異例の上方修正」という強気材料と、その偏在と持続性という弱点を、FactSet を看板に複数ソースで突き合わせて読み解きます。

数値スコアカード・バリュエーション・市場反応は ページ上部にカード表示しています。本文では数字を繰り返さず、その読み筋に集中します。

1. 益成長のフェーズ — 「改定の方向」が示す地力

実績の「進化」と、予想の「先読み」は別物

決算シーズンを追うとき、強さには二つの層があります。一つは実績の積み上がり——Q1 2026 のブレンド EPS 成長率は 3 月末の予想 +13.1% から、決算が出揃うにつれ +27.7% (FactSet 5/8) まで膨らみました。これは「アナリストが入り口で地力を過小評価していた」結果で、確定値が予想を大きく上回ったことを意味します。

もう一つが、本記事の主役である未来の予想の先読みです。Q1 がいくら好調でも、それは過去。投資家がより重視するのは「次の四半期 (Q2) の見通しがどちらへ動いているか」です。そして Q2 の予想 EPS は、シーズン終盤に向けて下がるどころか +2.5% 上がった。実績が強いだけでなく、その強さがアナリストの未来予想にも伝播している——これが今回の改定が持つ意味です。

なぜ「上方修正」がそれほど珍しいのか

四半期の序盤に予想が下がるのには構造的な理由があります。企業は決算ガイダンスを保守的に出す傾向があり (達成しやすい目標を置いて「ビート」を演出する)、アナリストもそれに合わせて慎重に見積もる。だから四半期が進むにつれ、予想はじわじわ削られていくのが常態です。過去 20 年の平均が -3.2% という数字は、この「保守化の引力」の強さを示しています。

その引力に逆らって Q2 予想が +2.5% 上振れたということは、企業側が例年以上に強気のガイダンスを出し、アナリストがそれを真に受けて予想を引き上げたことを意味します。通年 2026 のボトムアップ EPS も $320.34 → $337.47 (+5.3%) と上方修正されており、楽観は Q2 単月にとどまりません。決算シーズンの「報われ方」が冷めている (後述) のとは対照的に、アナリストの数字の上では強気が続いている、という温度差がこの四半期の特徴です。

📚 用語: ボトムアップ EPS 推計と「改定の方向」 ボトムアップ EPS 推計 = 構成銘柄ごとにアナリストが出した予想 EPS を、指数全体で積み上げた値。S&P500 全体の利益見通しを表す。重要なのは水準そのものより改定の方向 (上向きか下向きか) で、これは相場の先行指標になりやすい。アナリストは新情報 (ガイダンス・受注・マクロ) を最も早く数字に織り込むため、改定の向きは「これから業績がどちらへ動くか」のコンセンサスの変化を映す。通常は四半期中に下方修正されるので、上方修正は地合いの強さの直接的なサインとして読む。

2. ビート/ミスの市場反応 — 改定は上向き、だが「報われ方」は冷めている

ここで重要なねじれがあります。アナリストの予想は上向いているのに、実際の株価の報われ方は冷めているのです。

FactSet (5/11 時点) によれば、ポジティブな EPS サプライズを出した銘柄の平均株価反応 (発表前 2 日〜後 2 日の 4 日窓) は +1.1% で、5 年平均 (+1.0%) とほぼ同じ。記録的な好決算でも報われ方は平年並みです。一方、ネガティブ サプライズ銘柄は -4.9% と、5 年平均 (-2.9%) の約 1.7 倍も売られました。当週 (US 5/26-29) の SNPS が上振れ決算でも -8.61% で売られたのは、この非対称の典型例です。

この「予想は上方修正・株価は完璧を要求」というねじれこそ、サイクル後半の特徴です。アナリストが数字を引き上げても、その引き上げが既に株価に織り込まれていれば、好決算は「想定どおり」で材料出尽くしになる。逆にわずかなミスは前提を崩すショックとして過剰に売られる。上方修正が株価の追い風になるのは「改定がまだ織り込まれていない」局面に限られ、今はその余地が薄い——という読み筋です。改定の方向 (強気) とバリュエーション (割高) を、別々に評価する必要があります。

3. バリュエーション — 上方修正は割高を正当化できるか

フォワード 12 ヶ月 P/E は FactSet で 21.0 (5/8 時点)。5 年平均 19.9・10 年平均 18.9 をいずれも上回る割高ゾーンです。別系統の Yardeni でも 5/10 時点で約 20.9 (forward EPS $354 ベース) と、定義差はあれど「平均超」という方向は一致します。単一ソースの癖ではなく、市場全体が実際に平均より高い倍率を払っている実像です。

ここで今回の上方修正が効いてきます。フォワード P/E の分母は「今後 12 ヶ月の予想 EPS」なので、EPS 予想が +2.5〜5.3% 引き上げられれば、株価が同じでも P/E は自動的に下がり、割高感がいくらか緩和される。実際、今回の上方修正は「マルチプル拡大に頼らず、分母 (EPS) の改善で評価を支える」健全な方向の動きです。記録的な純利益率 (Q1 13.4%、2009 年の集計開始以来最高・FactSet 4/27) も、この分母の地力を裏打ちします。

しかし——ここが本記事の核心ですが——分母を支える上方修正が特定セクターに偏っているなら、その正当化は脆い。P/E 21.0 を「業績で正当化できる」と言えるのは、改定が広く・持続的な場合に限られます。次章でその中身を解剖します。

📚 用語: フォワード P/E とは フォワード P/E = 株価 ÷ 今後 12 ヶ月の予想 EPS。過去 EPS で計算する実績 P/E より将来の利益期待を映す。単体の数字 (21.0) だけでは割高か判断できず、必ず自身の 5 年 / 10 年平均との比較で相対評価する。平均を上回る局面では、上値の余地は「これ以上のマルチプル拡大」より「予想 EPS の実現・上方修正」に依存する。だから EPS の改定方向が、割高相場では一段と重要になる。

4. 改定の中身 — Energy 一点突破という弱点

+59.2% の Energy と -15.2% の Health Care

Q2 2026 の上方修正をセクター別に分解すると、絵はがらりと変わります。改定を牽引したのは Energy で +59.2%——突出した上方修正です。FactSet も市場の懸念として「higher oil and gas prices (原油・ガス価格の上昇)」に言及しており、この改定がエネルギー価格という単一要因に強く依存していることが読み取れます。一方、最大の下方修正は Health Care の -15.2%。当週時点で唯一の前年割れ (減益) セクターであり、薬価政策・特許切れの逆風が予想にも反映されています。

つまり「+2.5% の上方修正」という指数レベルの強気サインは、その内訳を見ると一握りのセクターの大幅上方修正が、他セクターの下方修正を押し返して作られた合成値だということです。改定の「幅」は、Q1 実績の幅 (Mag 7 +63.2% に対し裾野 493 社も +17.4% と広がった) ほどには広くありません。

原油急落が突きつける持続性リスク

ここに当週のマーケットが重い問いを投げます。Energy の上方修正が原油・ガス高を前提にしているなら、その前提は今まさに崩れつつある。Iran が 60 日停戦延長のドラフト合意に達したと報じられ、ホルムズ海峡の通航再開期待から原油は 6 週ぶり安値へ下落、Brent は 5 月だけで約 -19% (コロナ禍以来最悪の月) を記録しました。改定の基準日 (5/28) 時点ではまだ価格が高かったため上方修正が成立しましたが、6 月以降のアナリスト改定では、Energy の予想が逆回転 (下方修正) に転じる可能性があります。

これは「上方修正は地合いの強さのサイン」という第 1 章の結論に、重要な留保を付けます。指数全体の +2.5% という数字は本物でも、そのは——Mag 7 + 裾野が揃って伸びた Q1 実績の「幅の広い強さ」とは異なり——原油という一過性要因に寄りかかった「幅の狭い強さ」である可能性が高い。割高な P/E 21.0 を支えるには、この偏りが是正され、IT・通信といった構造的な成長セクターの改定が主役を引き継ぐ必要があります。

📚 用語: なぜ「改定の幅」を見るのか — 集計値の落とし穴 指数レベルの集計値 (今回の +2.5%) は、セクターごとのプラスとマイナスを時価総額や利益で加重平均した合成値。少数のセクターの極端な上方修正が全体を押し上げると、見かけ上は強くても実態は偏っていることがある。だから集計値が改善したときは必ず「何が牽引したか」を分解する。牽引が構造的 (AI 設備投資・クラウド) なら持続性が高く、循環的・一過性 (原油価格・在庫) なら剥落リスクが高い。今回の Energy 主導は後者の色が濃い。

5. 次の改定材料 — 来週のマクロと AVGO

改定の流れが続くか折り返すかは、来週 (6/1 週) のデータと決算が左右します。Energy の前提 (原油価格) が剥落に向かう一方、IT・半導体の改定を点検する最大の機会が JST 6/4 (木) 早朝の AVGO (Broadcom) 決算です。AI 半導体ガイダンスが上方修正されれば、改定の主役が「循環的な Energy」から「構造的な AI ハード」へ健全にバトンタッチします。

マクロ面では JST 6/5 (金) 21:30 の 米雇用統計 (NFP)、6/1・6/3 の ISM 製造業 / 非製造業 PMI が、企業のコスト・需要環境を通じて次の EPS 改定の前提になります。FOMC (6/16-17) 前最後のフルデータ週であり、ここで景気の減速感が強まれば「売上の伸び」前提が、賃金インフレが粘れば「利益率」前提が、それぞれ揺らぎます。改定の方向を追う投資家にとって、来週は重要な分岐点です (当週デイリーの来週への布石参照)。

6. 長期投資家への含意

日本人投資家としての視点

実務的な注意を二つ。時間軸として、FactSet の Earnings Insight は US 金曜更新で、日本では土曜午前に最新版を確認できます。改定系のテーマ記事 (今回の Q2 EPS 改定) は週末にまとめて咀嚼するのに向きます。通貨の面では、Energy の上方修正を支えた原油高は、産油国でない日本の投資家にとっては「輸入インフレ・円の実質価値下落」と表裏一体です。S&P500 の EPS が原油高で嵩上げされても、円建てで保有する側はエネルギーコスト増という別の負担を負う——現地通貨建ての集計値と、円建ての体感を切り分けて見る必要があります。

では、どう構えるか

レジームは「改定は上向き、だが質は偏在」。指数レベルの上方修正は本物で、割高な P/E を分母 (EPS) から支える健全な動きです。一方、その牽引が原油高の Energy に偏り、価格前提が当週まさに剥落し始めている点は、楽観を割り引く材料です。サイクル中盤後半という位置づけは変わらず、ここからのリターンは「マルチプル拡大」より「改定が広いセクターに広がり続けるか」に依存します。新規の積極買いには慎重さが要る一方、上方修正が続く限り業績の土台は崩れておらず、長期保有を急いで手放す局面でもありません。

次回の更新で確認すべき 3 点

  1. Energy 改定の逆回転 — 6 月以降、原油急落を受けて Energy の Q2 予想が下方修正に転じるか。転じれば指数全体の上方修正も勢いを失う。改定の持続性を測る最重要点。
  2. 改定の主役交代 — IT・通信・半導体 (AVGO 決算が試金石) の上方修正が Energy のバトンを受け継ぐか。構造セクター主導に移れば「幅の広い改定」へ健全化、移らなければ偏在のまま。
  3. フォワード P/E の頭打ち — EPS 上方修正で分母が増えても株価が先回りして P/E が 21 台で粘るなら、割高感は解消されない。改定が株価に「織り込み済み」かを測る。

7. 出典・データの扱い

本記事は FactSet Insight の複数記事 (5/29 の EPS 改定、5/8 の決算 Update、5/21 の Mag 7 分解、5/11 の市場反応、4/27 の純利益率) と LSEG (Refinitiv)・Yardeni を照合し、編集部の解釈・歴史的文脈・当週マーケット (原油急落) との接続・日本人投資家視点を加えた独自分析です。各数値の基準日は本文・スコアカードに併記しています (Q2 改定・セクター別改定は 5/29 記事の 3/31→5/28 基準、フォワード P/E は 5/8、目標株価は 5/21)。集計値そのものは各社の一次集計に依拠しており、元レポートへは下部の出典リンクからアクセスしてください。


⚠️ 本記事は FactSet Insight 等の公開データを複数ソースで照合し、編集部の解釈を加えた独自分析です。各社の元レポートへは出典リンクからアクセスしてください。

出典・データソース

この記事を共有:でポスト

関連デイリー

免責: 本記事は FactSet Insight 等の公開データを複数ソースで照合し、編集部の解釈を加えた独自分析です。 情報提供のみを目的とし、投資勧誘や個別銘柄の売買推奨ではありません。集計値は取得時点のもので、 市場の進行や訂正により変動します。最終的な投資判断はご自身の責任で行ってください。